複雑・ファジー小説

Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.10 )
日時: 2014/05/08 13:05
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: A9wxTbZM)

 謎の少女シエルの記憶喪失の容態は心因性による逆向性健忘症に近いものだと診断された。

 それが一時的なものなのかどうかは、判らないという。

 そのまま記憶が戻らないということも十分あり得るらしい。

 少女に関する身体的情報等のデータ等はトップシークレットとされ、一部の者のみ知る機密事項となった。

 そして少女は極東支部でその身柄を継続的に保護される事になった。

 監視の意味も含まれている事は言うまでもない。

 今だ不明な点が多い。

 何処から来たのか、何が目的なのか。

 所属する組織的なものが背後に存在するのか、その意図とは。

 果たして彼女は何者なのか・・・。

 

 


















 中央大陸南西部原生林地帯。

 その雄大な森林に隠されるようにカモフラージュされた巨大な六角形の建造物。

 その建物の最上階の一室。

 窓から下界を望むひとりの軍服姿の淡い緑の長髪の女性。

 優美な髪に顔は隠れて後姿しか確認できない。

 「それで・・・報告の事項とは?」

 女性は振り替える事無く背後に控える者に問う。

 「ナンバーズの二名が捕獲に当たったのですが、どうやら取り逃がしたようです」

 タイトなビジネススーツに身を包んだ眼鏡を掛けた女性が恭しく答える。

 「ほう・・・ふたりがかりでも捕えられなかったのか。予想以上のポテンシャルだな。その後は、どうした?」

 「恐らく領海域外に逃れたものと・・・機体の残骸からして、日本海方面と推測されます」

 外景を覗いていた女性はピクリと反応する。

 「日本か・・・あの島国には『ウロボロス』の民間組織があったな」

 「はい。極東支部が存在します。もし、そこに逃れたとなると、些か面倒になると思われますが・・・」

 眼鏡をくいっと上げて秘書風な女性が言う。

 「記憶調整が完璧ならば、何も問題あるまいが・・・お前はどう思う?『アザゼル』」

 窓を眺めながら女性は問うと部屋の片隅に黒い影がいつの間にか壁を背に立っていた。

 「!!?」

 ギョッとする秘書風の女性。

 いつの間に現れたのか、もしかして最初からいたのかもしれない存在に慄く。

 それは全く気配を感じさせず、影の一部から抜け出した。

 漆黒のショートヘア、年の頃十四、五歳の少女のようだが、顔を覆い隠す不気味な仮面をしていた。

 蒼身のボディスーツを纏い少女は仮面から無機質な声を紡ぐ。

 「・・・No.23は事象変すら制御しうる特異体・・・『星の意志』すら、おいそれと干渉はできない・・・それに、わたしが感じる・・・『奴』の覚醒はまだ・・・その『刻』ではない・・・」

 その仮面の少女の言葉に満足そうに女性は頷く。

 「そうか、ならば引き続き計画は続行せよ。・・・下がっていいぞ、アザゼル」

 アザゼルと呼ばれた仮面の少女は影の中に溶け込みように消えた。

 眼鏡の女性は、少女が消えた場所を凝視していたが、気を取り直し会話を続ける。

 「・・・よろしいのですか? 敵に手の内を握らせておいて・・・」

 女性はクスリと、恐らく笑ったと思われるが窺い知れない。

 「・・・カードは幾つも用意してある。それにそのカードは奴らにとっての『ジョーカー』になるやもしれん・・・今は観察を決め込めばいい」

 そして女性は静かに言う。

 「世界の改変を望む『九頭竜』・・・世界の覇権を狙う『ジャバウォック』・・・そして正義と平穏の名のもとに集う『ウロボロス』・・・せいぜい、争うがいい・・・すべては我ら『エキドナ』の手の中・・・」


 女性は外界に広がる景色を見下ろした。