複雑・ファジー小説

Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.13 )
日時: 2014/05/10 18:57
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: gG5ipZbC)

 極東支部シェルター施設内。

 防壁に囲われた複数ある避難シェルターのひとつ。

 人々が中央のワイドモニターから、ジナたち三機のドラグーンの戦いを観戦していた。

 不安げに見守る者、熱狂する者、様々だ。

 シエルもその中に混じりモニターを視ていた。

 竜種と戦う彼女たちを視ていると、何かが頭によぎるのだ。

 自分も同じように戦っていたのではないか、と。

 現に自分はドラグーンの脱出ポッドに乗っていたらしいと聞いたが、実感が湧かず、こうして彼女たちの戦闘を視るまで疑問に思っていた。

 だが、今なら何となくだが解る気がする。

 血が騒ぐのだ。

 竜種が叩き潰されるのを見ると高揚する己があった、しかし嫌悪感はまるで無く、むしろ焦燥感さえ感じた。

 戦わなければと。

 己がやらなければと。

 それは使命感。

 遠い昔、誰かに与えられた約束事。

 食い入るように見つめていると戦いは佳境に突入し、ジナたちが優勢な戦況になった。

 このままいけば終わるだろう。

 勝利は目前だ。

 その時、

 シエルの頭に響く強烈な『何か』。

 「うぁああああっ!?」

 頭を押さえて蹲る。驚く周りの人々。

 「ど、どうした、お嬢さん!?」

 「ねえ、あなた大丈夫!?」


 『声』だ。

 声が聞こえる。

 怒りの声だ。


 モニターを視ていた人々が一斉に驚愕の声を上げる。

 そこにはあまりにも巨大な竜種が映り込んでいた。
















 大地に影を差す、見上げる巨躯。

 大空を覆い尽くす翼、御山の様な四肢。

 岩で象られたような頑強な鱗。

 真紅の双眸を赤々と爛々とさせ、剥き出しの歯牙を噛み鳴らす。

 それは竜を統べる者。

 破壊と混沌の象徴。

 人類の仇敵者。

 轟々と咆哮を木霊せる。
 


 「・・・『原竜種』・・・!!!!」


 ジナたちの頭上を凄まじい迅さで飛び抜ける。

 それは瞬く間に過ぎ去り、一点の影となる。

 「まずいっ!!! あっちには支部がっ!!!!」

 ケイが我に返り叫ぶ。

 「そんなっ!! 急いで戻らないとっ!!!」

 ユニスが慌てる。

 「今なら、全力で行けば間に合うよっ!!! 行こう!!!!」

 ジナが清龍のバーニアスラスターを全加速させ飛翔させ後続からケイの紫龍、ユニスの黄龍が続き、駆ける。


 急がなくては、皆が危ない・・・!!! 

















 「竜種急速接近!! こ、これは、原竜種です!!! ですが、これは・・・あまりにも巨大な・・・未確認の個体ですっ!!!!」

 オペレーターの表情が引き攣る。

 「何・・・!? くっ! まさか、変異体か!? 支部防壁レベルを最大に引き上げろ!! 隔壁、すべて降ろせ!! 待機しているドラグーンをすべて集結させろ!!! 絶対に近づけさせるな!!!!」

 カガミが指示を出し、苦悶に歪ませる。

 「・・・今からでは、バハムートに応援も間に合わん・・・ヨルムガントもシェンロンも同様だ。・・・急いでくれ、ジナ、ケイ、ユニス・・・」



















 慌ただしい局内。 局員が行き交う。

 戦える者は直ぐに赴いた。

 だが、ドラグーンの数にも限りがある。

 格納庫の奥。

 そこには大破し、機体部品が足りず、所々装甲が剥げ落ちた試作初期型のドラグーンが眠っていた。

 かつて活躍していが今は乗り手も無く埃が積もり、長らく使用されていないことが窺える。

 恐らく、いや、最早起動しないその躯体の前にひとりの少女が見上げていた。

 長い蒼黒の髪をなびかせて。

 「・・・力を貸して・・・わたしがやらねば・・・」

 動かないはずのコックピットハッチが音も無くゆっくりと開き、乗降ラダーが降りる。




 まるで少女を誘うように。






 そして少女は暗闇のコックピットへと静かに消えていった。