複雑・ファジー小説
- Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.18 )
- 日時: 2014/05/10 11:10
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: l6K9Eb8k)
赤く、赫く、照らし出す。
朱く、緋く、映えさせる。
どこまでも、どこまでも、紅く。
天と地を、空と大地を塗り潰す。
深淵より呼び覚まれし獄界の焔。
原竜種はその巨躰を頑強な鱗を強靱な爪も凶悪な牙も焼き尽くされる。
存在ごと、すべて、断末魔さえも飲み干して。
踊り燃え上がる紅蓮の支柱が徐々に勢いとなりを潜め、一欠片の火礫となり、虚空に吸い込まれるように消えると、そこには大地に抉り突き立てられたような広大な穴が穿たれていた。
まるで奈落の底まで通ずるのではないか、言うほどの・・・。
黒煙を上げる巨穴の真上に蒼黒のドラグーン、アンフィスバエナのコックピットでその景状を眺めるシエル。
「・・・竜種はすべて、わたしが・・・」
己に架せられた使命、それは・・・。
「ううぅ・・・! あ、頭が・・・っ!」
突如猛烈な痛みに晒され、額を押さえ悶える。
何か、何かが蘇えりそうな気配・・・しかし・・・遠く・・・果てしなく、距離感がある。
それに、それを遮る忌まわしい感覚・・・。
・・・ドラグ・・・マキ・・・ナ・・・。
誰かが自分をそう呼んでいる。白衣を着た、たくさんの研究員。
シエル・・・アル・・・シエル。
液体の中に浮かぶ自分をそう呼んでいる。
アルシエル・・・奈落の主と・・・。
ジナたち三機のドラグーンが現場に到着し、その異様な有り様に驚きの声さえ喉元で押し止め息を飲んだ。
「な、なにこれ・・・? あ、穴?」
ジナが数メートル先の虚穴に恐る恐る近づく。
「なんて巨大な・・・まるで、核爆発でも起きたような・・・」
ケイが底知れない暗闇を覗く。
「あっ! ふたりとも上に何か・・・あれは、ドラグーン?」
ユニスが上空を指差すと、つられてふたりとも見上げ真紅の銃剣を携えた蒼黒の竜機が佇んでいるのを確かめた。
「あのドラグーンは、一体・・・」
「原竜種がいない? まさか、あの蒼いのが倒したというの?」
「こっちに降りてきますっ!」
静かに両翼を格納して降下し、ジナたちの前に着地すると糸が切れた人形のようにガクリと片膝を着き動かなくなる蒼黒のドラグーン。
三人は互いに顔を見合わせ、警戒しながらも様子を見つつ歩み寄る。
その機体の各部位、箇所から蒸気を排熱してゆっくりとコックピットが開口されるとそこには三人が見知った顔がリニアシートに項垂れていた。
「えっ・・・! なんで、シエルちゃん・・・!?」
管制室にジナたちが現場に到着したことが告げられたが、原竜種は既に何者かに抹消されてしまっていた。
その彼女たちから件のドラグーンが謎の少女シエルが搭乗していたことが確認された。
記憶喪失の謎めいた少女。
人の力では及ばない人智を凌駕した圧倒的な『力』。
その片鱗の一端を間近で見た者たちは戸惑いつつも、そうでない者たちも一様に彼女に救われたと感謝する。
カガミは、己の中で言い知れぬ不安が過ぎるのを感じた。
この感じは遥か以前十代の頃に、オペレーターとして着任していた時のにも感じたことがあった。
あの時はパイロットのひとりが帰らぬ人となったが・・・。
「・・・我々は地獄の窯の蓋を開けてしまったのではないか・・・?」
カガミは予感しつつも救難者の救援指示に意識を傾けた。