複雑・ファジー小説
- Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.2 )
- 日時: 2014/05/07 11:50
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: BjWSzvYn)
Act.1 追う者、追われる者
月も星さえも、その影さえ見せることもなく覆い隠す夜闇の帳。
暗き海上を波しぶきを上げて、ひた走るひとつの機影。
水色の流線型をした外装の機体、汎用ドラグーン乙型『水蛟』(ミズチ)がブースターを加速させ水面ギリギリを滑空する。
「・・・右肩部バーニア・スラスター、破損。左脚部のダンバー・スタビライザーも機能低下が著しい」
モニターパネルから発せられる明りだけが薄暗く照らすコックピット内。
パイロット搭乗座席には、蒼黒のロングヘアーに前髪の一部が銀色の少女が真紅の瞳を細めて、ひとりごちる。
腰まで長く伸びた艶やかな蒼黒の髪の前髪を掻き上げ、操作盤画面に移る機体のステータス情報を確認している。
「推力は三十パーセントまで減衰・・・。プログラムモジュールの最適化まで、あと四十秒・・・」
病人患者が着るような薄い貫頭衣一枚だけを羽織り、ほぼ裸身の少女はコントロールパネルを忙しなく操作する。
「領海外域まで、もう少し・・・」
パネルのタッチ音とドラグーンの駆動音が静かに響く。
「先程の・・・彼女に追い付かれたら・・・」
脳裏に浮かぶ追手の影。
漆黒のショートヘア、そして顔を覆い隠す不気味なマスク。
「わたしは・・・勝てない・・・」
現時点では決して戦ってはならない相手だった。
本能が告げた。
相対した時、凄まじい妄執を感じた。
執念、怨念とも言った方が良い。
それほどまでの殺気を浴びせられたのだ。
「この世界に神という存在がいるのだとしたら、わたしに僅かな刻を・・・時間を・・・」
その時、警戒を知らせるアラームがコックピット内にけたたましく鳴り響いた。
「・・・!!!」
モニターには後方から超高速で接近する二体の機影があった。
「新たな追っ手・・・今度は汎用型ではない」
その差をぐんぐんと縮め、迫り来る二機のドラグーン。
「戦うしか・・・ない・・・のか」
敵影を知らせる警告音と明滅するレッドランプが支配する中、静かに瞳を閉じる少女。
「だが、このまま訳もわからず殺されてなるものか。『ドラグ・マキナ』・・・この言葉が、わたしの記憶を・・・わたしが何者なのか・・・その答えを・・・」
夜の空は曇天に覆われ、豪雨と雷鳴が轟く。
海原は波を巻き上げ、行く手を遮ろうと高くかかげる。
嵐が迫ろうとしていた。