複雑・ファジー小説
- Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.24 )
- 日時: 2014/05/18 16:12
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: f/UYm5/w)
Act.7 力の証明、己の居場所
『人はすべからく、力への意志によって突き動かされている』
フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ
人は世界に生まれ落ちたその瞬間から、様々な恐怖に支配されている。
他者への恐怖、自身への恐怖、生きることの恐怖、そして死の恐怖・・・。
人が生きていく限り、それら恐怖から逃れることは出来ない。何故ならそれは、不安定な存在として生まれた人が、安定した『自己』を確立するために必要なプロセスなのだ。
従って、人は様々な手段でこれらを回避しようと模索し、悩み苦しむこととなる。
その結果、人は他人を否定し、自身を正当化し、超越者への依存に頼り、争う反面、お互いに寄り添い、心を触れ合わせ、その結びつきを強固なものにする。
人は皆それぞれに何らかの『畏怖』を心の内に潜ませる。
ある者はそれから逃避し足掻き、またある者はそれを克服しようと真正面から挑みいく。
人の意識を束縛しつつも、人を人たらしめる要因————。
『怖れ』であり、『欲求』である。
世界を支配するのも、その支配から逃れるのも、他人を虐げるのも、他人を癒すのも、愛し慈しむのも、すべて『力』への渇望であり、自己を防衛しているに過ぎない。
生きるといことは即ち戦うということ。
戦うためには力が必要不可欠。
それこそが力への意志。
人の生存を脅かす『竜種』という脅威の存在。
これらを超克してこそ、人は新たなステージに臨めるのではないか?
『ヒト』という種の進化を・・・。
————その先へと。
某所研究所施設内。
立ち並ぶ大小様々な機材群の前に立つ翠髪、軍服の女性。
その後ろに影のように闇から現れる仮面の少女。
「・・・マスター。No23が『力』を発現させた・・・」
その言葉にマスターと呼ばれた女性は興味深そうに首を傾けるが、顔は視えない。
「ほう・・・それでどうだった? お前の眼鏡に叶ったか、アザゼル」
女性は振り返らず、目の前に設置されているカプセルポッドを眺めながら問う。
「・・・『まだ』だ。ようやく産声を上げた赤子程度、遠く及ばない・・・が、資質は期待できる・・・」
仮面の少女が無機質な声で答える。
「そうか、ならば成長が楽しみだな・・・その『刻』の訪れを・・・」
そう言って女性は、溶液が並々と収まる強化ガラスのカプセルを見やり、その中の浮かぶ物体を観察する。
淡く色付いた液体に満たされた透明な容器の中心に裸身の少女がコード、チューブなどの複雑な機材で繋がれていた。
その姿は痛ましく、悍ましく、異様。
片腕と片足は醜悪な肉塊に包まれ鋭い鉤爪を形作り、肉腫の血管が瑞々しい肉体を縦横に走らせ、少女の心臓部を禍々しい『眼』が覆っている。
少女は呼吸器を装着され、顔半分を歪な肉腫を纏い静かに呼吸を繰り返すが、胸部の不気味な閉じた眼が時折、ピクリと動き瞼を震わせる。
「世界は変わり、移ろい往く・・・人が望もうと望むまいと・・・」
容器の中、異形の少女が呼気の泡を作り出すのをじっと眺めていた。