複雑・ファジー小説
- Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.25 )
- 日時: 2014/05/12 17:08
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: QgoEX629)
ウロボロス極東支部格納庫。
シエルは己の手を見詰めていた。
今だ憶えている。
己の内に宿った激しい怒りの炎が猛る様をまざまざと、鮮明に、克明に。
感じたのだ、竜種に対しての異常なまでの敵意と殺意を。
突き動かされるままに廃棄保管されたドラグーンに乗り込み、出撃したのを思い出し、それから見詰める先を己の掌から目の前の蒼黒の竜機へと移し見上げる。
戦場に散ったドラグーンの残骸を寄り合わせ形造って誕生した異形の機体が、ただ静かに再び稼働するのを待つかのごとく佇む。
そして僅かだが、蘇えった記憶の断片・・・。
どこかの仰々しい巨大な研究施設、たくさんの研究者たち、自分を見る冷徹な視線、それぞれが口に出す呼び名、『アルシエル』と・・・。
アルシエル・・・故にシエルか・・・。
なるほど、わたしが最初に名乗ったのはこの呼び名からきているのか・・・本当に名前かどうか不確かなので、今後もシエルでいこう。
それと、気になる言葉も言っていた。
『No.23』 そして 『ドラグ・マキナ』。
まるで製品番号のような肩書きだが、手掛かりになるキーワードになるかもしれない。
わたしが何者なのか、知るために・・・。
それにしても、湧き上がる激情に任せ行使したあの『力』はなんだったのか、竜種の攻撃を防ぎ、あまつさえドラグーンを解体、一から構築するなど人の成し得る業ではない。
尋常ならざる異能。
しかし、不思議と違和感無く受け入れられる自分がいるのだ。この『力』はもともと最初から備わっていたかのように・・・生物が己の生きる術を本能的に理解している様に・・・。
生まれた瞬間から・・・。
生命の息吹をその身に吹きこまれた時から・・・。
それは『刻印』。
刻まれた証。
遥か、悠久の彼方・・・原初の海より出ずる・・・。
わたしは蒼黒のドラグーン、アンフィスバエナの赤い双眸を見詰める。何故、この名を付けたのか、それは解らない。だけど、当たり前のようにそう思った。
吸い込まれそうな真紅の双眼、自分と同じ赤い瞳。
そう、ずっと昔から、わたしは・・・『わたしたち』は・・・。
「・・・エルちゃん? シエルちゃん?」
何者かがわたしの肩に触れようとした。
「!!!」
瞬時に反転、流れる蒼黒の髪、下から抉る様に蹴りを放つ。狙いは顎。
「なっ!?」
驚きながらも素早く腕で捌く背後の者、わたしは続けざまに貫き手を放つ。
心臓を潰し、破壊して動きを止めるため、が、腕を縫うように絡めとられ関節を決められてしまう。
瞬間、勢いよく逆回転し拘束を逃れる。
跳躍、宙転、その場を離れ、獣のように四足で着地し低い姿勢のまま振り返る。
驚き目を見開く少女、確か名前はジナだったか、油断したとはいえ気配を悟らせず後ろを取るとは・・・それに何かしら武術の心得があるようだ。
今度は油断しない。
竜種ならいざ知らず、人間など、私の敵では・・・。
「あの・・・シエルちゃん・・・?」
ジナが構えたまま、手を置いた状態で固まっているのを見て、わたしは我に返り、自分がしたことに驚いた。
何だ、何をした、今。
「病室にいなかったから、もしかしてここだと・・・」
わたしは慌てて、立ち上がる。
「い、今のは、その、驚いて・・・」
何とか言い訳をしようとしたが、言葉が出てこない。何故、あんな真似をしたのか、彼女は自分を助けてくれた恩人なのに・・・。
命を奪おうと思った、殺そうと、一瞬でも・・・。
「シエルちゃん・・・」
ジナがこちらに歩み寄る。
「うっ・・・」
反射的に身体が戦闘態勢に入りそうになる。近づかないでほしい。
「凄いよ! 今の! 格闘技習ってたの!? 運動神経抜群だよ! 今度正式に手合せしようね!!」
キラキラした純粋な瞳で言う。
「えっ・・・ええ、まあ・・・」
勘違いしてくれたので取り敢えず、適当に相槌を打ち、その場はごまかした。