複雑・ファジー小説
- Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.28 )
- 日時: 2014/05/15 02:04
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: m37ThBn8)
蒼黒の機体を照らす残り火。
シエルはコックピットのシートに身体を預けながら、異様に高鳴る動悸を抑えるのに必死だった。
身を包むのは炎の熱だけではない。
己の内から湧き上がる高揚感。
竜種を焼き尽くすたび、一匹一匹滅ぼすたびに、感じるのだ。
暗い悦びを。
その体表を、鱗を焦がし、肉を裂き、骨をも穿ち、すべてを燃やし塵芥へと到らせる、断末魔さえも。
心地良く染み渡る。
このまま、身を委ねてしまいたい。
そう想わせてしまうほどに、快感が自分を苛ませるのだ。
「・・・違う。わたしは、決して望んでなどいない・・・違う・・・『あれ』とは、違う・・・」
眼を閉じ、押し寄せる暗闇を払おうと、かぶりを振る。
その時、コンソールのホログラムレーダーに高出力の敵影反応を感知した。
「ハッ!? 竜種反応! 新手か!!」
我に返るシエルがアンフィスバエナの機体を翻し、周辺を見回す。
そして、高速でその場から離脱、ジナたちから遠く離れていってしまう。
それに気付いて慌てるジナたち。
「あっ!? ジナちゃん!? どこ行くの!」
「勝手に戦線から離脱したら、駄目よっ!!」
「微弱ですが、竜種の反応がありました! 恐らくそれを追って行ったと思われます!」
三人は直ぐに後を追い、シエルが消えた方角へドラグーンを傾けた。
高速で荒野の上空を飛翔するアンフィスバエナ。
「確かにこの辺りで反応があったはずだが・・・」
周辺を探すがそれらしい影は見つからない。
機体の索敵レーダーからも反応は消えてしまった。
「・・・いや、いる・・・まだ、ここにいる。・・・何処だ・・・?」
だが、シエルは何か巨大な気配を、生物の息遣いをその肌に感じていた。
身を潜め、獲物の隙を窺うように、こちらを入念に探っているのを直感的に確信していた。
それもごく間近に、すぐ傍に・・・。
コックピットからも周辺を全方位カメラで調べるが、姿を確認できない。
油断無く、何時でも対応できるように紅の銃剣を構えた、途端、
機体の背後、真後ろに巨大な影が覆うように突如、空間から出現したのだ。
「なっ!?」
瞬間的に銃剣を斬り抜き、金属音がなる。
しかし頑強な外殻に阻まれ、手応えを感じない。それどころか、超速で機体に絡みつく異様に長い物体が動きを阻害し、凄まじい圧力で締め上げる。
「こいつはっ!!?」
捉えた獲物を吟味するように己の目線まで持ち上げる異形。
まだら模様の不気味な外色の鱗、長大な蛇腹と大きく広げられた横隔の被膜、シュルシュルとその巨大な口角から生える鋭牙の隙間から長い二股の毒々しい色合いの舌を垣間見せる。
それは超巨大な『蛇』だった。
コブラのような被膜をかかげ、己の長い尻尾で巻き付かせたドラグーンを冷たい温もりを窺えない爬虫類の瞳でギョロッと見据えていた。
ミシミシと締め付ける尾の力が増していく。
「チィッ! 擬態能力を持った新種、いや、異竜種か! だが、この程度の拘束、わたしのアンフィスバエナの炎が・・・!!」
シエルは機体出力を高め、拘束から脱出を試み始めたのを察知したのか、大蛇の異竜種が威嚇の鳴き声を上げた瞬間、
その巨躯から凄まじい電撃が発せられ、機体もろともシエルの肉体を衝撃が貫いた。
「がぁあああぁぁああぁああぁっっっ!!!???」
躰を走る電流に意識を持っていかれそうになるが、とつぜんピタリと止む。
大蛇は中のシエルを覗く様に近づき、瞳をギョロつかせる。
「こ、こいつ・・・わたしを・・・!」
そして、再び強烈な雷を浴びせた。
「ッッッ!!!!!」
声も上げられない、先程よりも強めの電流が流れ、そして再び止んだ。
まるで、弄び、いたぶるように。