複雑・ファジー小説
- Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.32 )
- 日時: 2014/05/17 16:47
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: emO5t6i/)
氷塊の海原を翔ける蒼黒のドラグーン、アンフィスバエナ。
「・・・合流地点はこの辺りか・・・」
シエルは見渡す限りの張り詰める氷の上で、呟く。
先日、カガミに呼ばれて局長室を訪れると思いもよらない話を彼女から聞き受けた。
ウロボロスロシア支部からの計らいで、自分の損なわれた記憶を蘇えらせられるかもしれないと言うのだ。
シエルはその案を了承し、ロシアへと向かうため支部から派遣される使者と合流する手筈になっていた。
「仮に記憶が取り戻せなくても、何かしら手が掛かりを入手できるかもしれない・・・」
そう思いながら冷たい霧の飛塵を機体に疾らせる。
その時、レーダーが竜種の影が間近に接近していることを警告音と共に告げた。
「・・・竜種反応! 何処から来る・・・!」
途端、真下の氷塊が音を立て亀裂し始め、大きく割り開かれた。
「!? 下か!!」
瞬時に機体を翻した刹那、アンフィスバエナが滞空していた場所を巨大な咢が氷ごと閉じ合せられた。
構えたガンブレードを狙い定めるシエル。
盛大な波しぶきを奔らせ、豪快に氷海を突き割り砕いて巨大な、そして異様な物体が姿を垣間見せた。
それは、淡い陽光の日照を浴びてキラキラと反射していた。
半透明な水晶の如き神秘的な輝きを放ちながらも、悍ましい蠢くイソギンチャクの口を忙しなく開閉させ、獲物を逃したことに憤るように甲高い奇声を発した。
それは、映像でだが見た事がある生き物だったが、今のそれとはかけ離れた通名だった。
流氷の天使、クリオネ。
そのまま巨大化させた、内部の臓器らしものが透き通る外皮から震え脈動する不気味な様がマジマジと見て取れた。
「・・・気味の悪い竜種め、直ぐに片づける!! フレアディヴァンショット!!!」
銃剣から火球を放つアンフィスバエナ。
グロテスクな見た目とは裏腹に素早く海中へと潜る竜種の頭上で炎が爆ぜ、氷を溶かし穴を空ける。
氷を浮かせな割りながら超スピードで潜行する影を追いながら炎弾を散発させるシエルだが、直前で躱され海中へと深く逃れてしまい埒が明かない。
「次はどこだ・・・?」
融解し波立つ流氷を尻目に狙いを付けていると、足元の氷が再び浮き上がる。
「そう来ると読んでいた!!」
氷塊を割り、蒼黒の竜機の真下から覗かせるを大きく開かれた大口に真紅のガンブレードを叩き込みトリガーを連続で引き絞る。
爆散。
紅蓮の豪炎を飲み込み爆ぜ飛ぶクリオネ型の竜種。
貫いた海面から炎と海水の柱が噴き上がる。
「・・・これで、ロシア支部の使者と合流しやすく・・・」
波の飛沫を浴びながら踵を返そうとしたシエルだが、レーダーに再び竜種反応が感知された。
それも、何十、いや、どんどんと増えていく。
それこそ百匹近くと・・・。
「・・・ここは奴らの『巣』だったのか」
辟易しつつも、銃剣を構え振り返るシエル。
海上から無数の影が湧き上がり、一斉に海面から飛びかかる夥しい数のクリオネ型の竜種。
シエルはアヴァドームの紅の刀身にエネルギーを集約させ始めた時、
「Осторожно(危ない)。その場を動かないで下さい。リディニーク・スミェーエルヌ・ターニッツ!!!!」
涼やかな声の後に激しい疾風が翔け抜け、通り過ぎた。
瞬間、竜種の大群は木端微塵に細断され海の藻屑と還った。
シエルは声が発せられた後方に機体を向けると、そこには雪のように白々とした一機のドラグーンが銃砲と同一化した腕甲を可変し収納する。
「アナタが極東の方ですね。ワタシがロシア支部の使者レシエナ・アレクサンドロス・エーラです。Очень приятно(初めまして、よろしく)」
風のような凛とした少女の声だった。