複雑・ファジー小説

Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.33 )
日時: 2014/05/18 15:57
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: f/UYm5/w)

 Act.10 風雪の大地、視通す少女


 ロシア支部からの使者レシエナという少女にシエルは案内され、シベリア近郊の秘密地下通路を行く二機のドラグーン。

 「ここは拠点基地からの脱出経路としても使用することが出来ます。このような通路は各地に存在し、出撃する際にも利用するのです。ロシア支部はここを通過した先にあります」

 薄暗い電光灯がまばらに照らすトンネルを抜けた先には、広大かつ巨大な空洞の地下世界が広がっていた。

 そこはジオフロントの地下コロニー都市が形成されていた。

 「Пожалуйста(ようこそ)。ウロボロスロシア支部へ。ワタシたちはアナタを歓迎します」











 
 支部のハンガーにドラグーンを搬入し、シエルはコックピットから乗降ラダーで降りた。

 格納庫内の無機質な機材がより、北国の寒さを感じさせるが、地下内の温度が一定に保たれているのか、外の極寒の寒さとは無縁で過ごし易い。

 首を巡らし周りを見渡す。

 「規模は、極東よりも大きいな。資材は若干古いが・・・」

 機材設備はどことなく一昔前の印象があり、ところどころ錆び等が目立つ。

 反対側に設置された固定リフトの白刹のドラグーンから、雪のような白さの髪と肌を持つ少女が降りてこちらに来た。

 「改めて初めまして。レシエナ・アレクサンドロス・エーラです。この子はワタシの愛機ユランです。よろしく」

 少女レシエナは白い華奢な掌を差し出す。

 「わたしはシエルだ。といっても自称なのだが・・・」

 その手を取り握手を交わすシエル。

 レシエナは交わし繋いだ手をジッと見つめる。

 「・・・これは・・・」

 「? どうかしたか」

 レシエナは組んだ手をそっと降ろして視線を戻し、何事も無いように振る舞う。

 「いえ、局長からシエルさんは記憶喪失と伺いました。それも特殊な『力』を伴う兆候の前後で幻視すると・・・」

 「ああ、何故だか判らないが、『力』と関係があるのかもしれない。それが自分の過去の記憶と何らかの結びつきに繋がることも・・・」

 シエルは己の手を見て、それから蒼黒の竜機をチラリと一別した。

 「このアンフィスバエナと共に・・・」

 レシエナもシエルの目線の先に映るドラグーンを眼を細めて視る。

 「・・・あのドラグーンはアナタの専用機ですね? 何か形容しがたい存在感を感じます」

 見つめていると、このまま吸い込まれてしまいそうな雰囲気を持つ機体だ。

 だがこれ以上は踏み込めない。何らかの『意志』が阻んでいる。

 自分は得意分野は戦闘なので、こういったことに『力』は特化していない。

 「・・・ワタシでは量りきれません。ですが、『あの子』なら恐らく、アナタの内に眠る記憶を呼び覚ませることが出来るかもしれません」

 レシエナがシエルに言う。

 「あの子、とは?」

 シエルが問う。

 「ワタシが知る限り、最高の『力』を持つ少女です。そして、ロシア支部最強のドラグーン操者。・・・アナタがここに訪れることも『予言』したのも、その子なんですよ」

 レシエナが誇らしく言う。

 揺るぎ無い自信と信頼が窺えることから相当に凄い人物なのだろう。

 しかし、予言、とは・・・。

 己の到来も予測していたというのか。

 「まずは局長に逢ってください。詳しい話はそれから行いましょう」

 再びレシアナが先頭に立ち、シエルを施設内の奥へと誘導していった。