複雑・ファジー小説

Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.38 )
日時: 2014/11/15 21:23
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: VKAqsu.7)




 奔る赤い斬光の一撃。

 アンフィスバエナが繰り出した剣戟が鍔ぜる戦鎌を弾き上げ、眼前の朽葉色のドラグーンを袈裟がけに薙ぐ。

 「立ち塞がるすべてを斬り捨てるっ!!!」

 蒼黒の機影、必殺の間合いで踏み込むシエル。

 しかし内部で今この瞬間、この己の竜機ククルカンに迫る襲刃に不敵な笑みさえ浮かべるパイロットの少女シェリ。

 破断の太刀が機体に触れようとした刹那、

 「腕はあることは認めるが、いかせん闘い方が甘いな」

 唱えた言葉と同時に巨躯の胸部前面と肩部装甲が勢いよく四方に開き、斬りかかる剣衝を迎え討ち、鈍い打撃音と共に弾き返した。

 「なっ!?」

 翼がはためくがごとく背部まで開いた装甲と開口された胸部には幾つもの光学兵器のブラストキャノンの砲門が搭載されており、照準を此方に合わせロックオンしていた。

 シエルは逆に弾き返されたアヴァドゥームを素早く引き戻し、獲物を自身に狙い決めるその射線上に覆い隠し身を護る。

 「撃ち放て。スカーズヴァンパイア」

 枯れ色の巨体から冷たい声が発せられる。

 そして、鈍色の輝きで極大のフォトンレーザーが発射され穿たれた。

 眩しいほどの閃光。

 咄嗟の判断で銃剣を盾にしたシエル。

 押し寄せる強烈な奔流がアンフィスバエナを破壊するべく包み込む。

 「くっ、この程度っ! わたしは怯みはしないっ!! はぁああああっ!!! ジェネレーターオーバーロード!!! メルトニウムゲヘナドライブ解放っ!!!!」

 もう少しで解るかもしれない自分の手掛かり。逸る覇気が身を猛らせ、己の内に潜む外智の力を集束させる。



 呼んでいる。


 遠き置き去りにした古の破片。


 待っているのだ。


 主の訪れを。


 その時を、唯ひたすらに。


 王の帰還を。



 機体に魔術文字の幾何学が浮かび上がり全身を覆おうと波光を阻むフィールドが形成され、押し返すように真紅の銃剣の切っ先を前方にかかげる。

 「何っ!? 何だ、この力は・・・!! 貴様は一体!?」

 シェリは今まで感じたことの無い未知の力を行使する敵対者に驚愕の表情を窺わす。

 震える冥紅の魔装銃。

 「・・・わたしには成さねば為らない使命があるのだ・・・!!!」

 身も心も鋭く貫かんばかりに研ぎ澄まされた刀身に刻み込まれる何か得体の知れない尋常ならざる強力な波動。

 構え定める蒼黒のドラグーンと少女の赫い双眸が交わり、睨み据える。
 
 「ヘルズゲートプロミネンス・アストラルヴァイドッッッ!!!!」
 
 空間を歪曲させる程の激しい熱光の瀑布がすべてを飲み干し支配する。

 焼絶。

 暴壊の息吹。

 「このエネルギー値はっ!!? 不味いっ!!!」

 シェリはその本能的直感でククルカンの全スラスターとバーニアを瞬間的にフルブーストさせ、轟き襲い来る凄まじい炎流から超速限界で離脱した。

 燃え奔る死滅の焔が僅かの差で機体の下部を通り過ぎ抜けると射線上に放逐された発掘現場の機材や資材、その他ありとあらゆる諸共を瞬く間に蒸発、此の世の理から存在と意義を消失させる。

 「チィッ!! 奴は化け物か!?」

 上空に逃れたものの、灼熱の余波が豪風となりシェリのククルカンに容赦なく襲い掛かる。
 
 
 















 「この力の波動はっ!?」

 戦闘を続けていたレシエナとその他の者たちが思わず戦いの手を止めてしまう。

 発掘現場の中心地から溢れ出す熱波と暴嵐が駆け抜ける。

 そして天を貫き戴く滅却の火柱がありありと垣間見えた。