複雑・ファジー小説

Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.4 )
日時: 2017/01/30 20:28
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: VHEhwa99)

 波を切り、互いに牽制する二機のドラグーン。

 「・・・機体の性能差もそうだが、パイロットとしての実力差も感じる・・・あの『力』を使うしかない・・・」

 水蛟ミズチを駆る少女が呟き、機体を前進させる。








 眼前にスパイクを振り上げるメルエヤルのドラグーン。

 彼女は思考する。任務は捕縛。それが無理ならば破壊、抹殺。

 だがそれは最終手段。

 ターゲットが駆る機体は標準機。自らが駆る機体とは性能は明らか。

 ならば最少限かつ致命的な迎撃。

 狙いは駆動系。

 破壊して動きを鈍らせ、そこに追撃の一撃を加え機能を停止させる。

 相手は真っ向から向かって来る。

 武装は標準型のアサルトライフル、それと機体に常備されているバイブレーションブレード。

 至近距離からの掃射と斬撃・・・捨て身の攻撃という訳か。

 互いの機体がすれ違う寸前、水蛟がブレードを斬り付けるが、それを完全に読んでいたメルエヤルは僅かな動きで避け、スパイクを振り抜き、ブレードを破壊する。

 「これで終わりです」

 そのままの勢いで旋回、スパイクを機体に叩き込もうとした時、

 「いまだっ!! はぁあああっ!!!」

 少女は意識を集中させる、一点に・・・少しでいい・・・動きを鈍らせるのだ・・・。

 突然メルエヤルの機体の駆動回路が異常をきたし、破壊され、弾ける脚部のアクアチューター。
 
 「なっ!?」

 バランスを崩したメルエヤルはそのままスパイクで対する竜機の機体を打ち砕いた。

 左腕だけを。

 瞬間、少女が駆る水蛟がブースターを全力疾走させ脇をすり抜けた。

 吹き飛ぶ腕はそのままに右手に携えたライフルを伸ばす。

 銃口の照準は群青の竜機でなく、後方の勝色のドラグーンだった。

 一斉に撃ち放たれる銃弾の弾幕。

 「ヴェカ!!!!」

 その意図を察し、叫ぶメルエヤル。

 少女は戦うと見せかけ、観戦を決め込んでいるヴェカという者が操るドラグーンに狙いを定めていたのだ。

 二体のドラグーンを馬鹿正直に相手などできない。

 油断している今が最大最後の好機。

 混乱に乗じて一撃離脱する。

 その筈だった。


 「メルエヤル。油断していたのはお前の方だったな」

 弾丸が貫いたのは残影だった。

 「なっ!!?」 

 少女は驚愕する。

 瞬間、ライフルを持つ右腕が粉砕される。

 同時に機体の首を頭ごと巨大な可変したアーム状の武器で掴まれ、そのまま空中に持ち上げられた。

 (くぅっ! なんて桁違いの強さだ!! もう一度『力』を使いたいが、頭が割れるように痛んで集中できない・・・ここまで、なのか・・・)
 
 鋭利な鉤爪が装甲を軋ませ、抉り食い込む。

 「汎用機の性能値でここまで扱えるのは流石、と言ったところか。だが、アタシの敵ではない。このまま連れ帰って・・・」

 その時、暗い海面に巨影が差し込んだ。

 「!!?」

 噴き上がる大波、盛り上がる大海。

 海中から巨大な、凄まじく巨大なクジラ型の生物が全貌を晒した。



 『竜種』だ。

 それもただの竜種ではない。

 竜種を統率、指揮し、人類の敵対者として牙を剥く先兵の先駆け。

 すべての竜種の頂点に位置する存在。

 『原竜種』。

 「チィッ!! こんな時に原竜種かっ!!!」

 「ヴェカ!! 今の戦力で戦闘は回避すべきです!!!」

 海面に浮上する体躯に気を取られるふたり。



 今しかない。

 

 離脱する絶好のタイミング。


 「はぁあああぁあああっっ!!!!!」


 頭部を掴まれた腕に並行するように機体を跳ね上げ、相手の胴に脚部を掛ける。

 そして、機体を回転、捻りあげて引き千切り、破壊する。

 己のドラグーンの頭部を。

 「なにっ!? 貴様っ!!!」

 「そんなっ!?」

 驚くヴェカとメルエヤル。

 反動を利用し、思いきり蹴り飛ばす。

 距離を開けた狭間を原竜種の巨躯が覆い隠し分断する。

 バーニアスラスターを瞬時に加速させ限界まで出力を上昇させ、その場を超高速で離脱。

 荒れ狂う濠濫の波と盛大な潮の飛沫を噴き上げるクジラのような巨体の異形が小さくなっていくのを尻目に飛翔し引き離す。

 「メインジェネレーター、エンジン共に出力全開!! 持ち堪えてくれ!!!」

 









 












 どれほどの距離を飛行したのだろうか。

 すでに機体の活動限界を超えている。

 「エネルギー残量もほぼ、ゼロか・・・よく此処までもってくれた・・・」

 ふと、コックピットに差し込む光に気付く。

 その眩しさに顔をしかめ、目を細めて向ける。

 水平線から朝日が昇り始めていた。

 陽光に照らされながら、ふいに意識が遠くなる。

 緊張の糸が切れたのものあるが、『力』を使い過ぎた所為だ。

 身体が脱力していく。

 なんとか機体を操作しコントロールを保とうとするが、肝心なことに燃料が無かったことに朦朧とする頭で理解した。

 思考が落ちる寸前、操作盤パネルを弄り脱出システムを作動させるとコックピットが緊急ポットとなり、機体から射出される。


 パラシュートが開き、そのままゆっくり海面に着水するポッド。



 
 それは海のさざ波に揺られながらユラユラと漂って往った。