複雑・ファジー小説

Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.41 )
日時: 2017/01/30 19:08
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: VHEhwa99)

 
 Act.12 蝕み、淀み







 ————ゴボッ。


 
 
 養水槽の透過版にあぶくが湧き上がる。


 

 ————ゴボリッ。



 
 再び泡が溢れる。




 無数に紡ぎだされる空気のリズム。

 設置された巨大なシリンダー、リアクターポッドの内部。

 養液に満たされた其処に年端も無い裸身の少女が様々な器具を身体中に取り付けられて浮かんでいる。

 泡はその少女の呼吸器から零れていた。


 

 ————某所研究施設。

 戦場さながらの実験場のようであり、白衣の職員が忙しなくパーソナルキーを叩く音が響く。

 「識別コード、0808191−個体名『マステマ』、脳波に微弱ながらグリーンαパターンを確認。しかしステータスダイアグラム数値に深刻な変化はありません」

 白衣の研究員がデータが羅列するモニターを見て報告する。

 「先程、極東部で強力なパルス波を捉えました。その影響かと思われますが・・・」

 その報告を聞いている軍服姿で緑色の長髪の妙齢な女性。

 此方から顔は見えないが視線の先は養槽内部の少女に注がれている。

 眠るように静かに呼気を繰り返す灰色の少女。

 年の頃は十三、十四くらいであろうか。まだ幼さく、あどけなさがある可愛らしく美しい少女である。

 「・・・だいぶ馴染んできたようだな。触媒となった竜種肉芽は体内に収まりつつあるか。・・・ところで、この個体の覚醒はいつ頃になると思う?」

 振り返らず近くの研究員に問う。

 「感応形成期は順調です。成長、固着スピード、共に既存モデリング媒体の倍の早さとなっています。恐らく覚醒時期は間もなくと思われます。ただその分・・・いささか精神のコントロールに一部問題があるかと・・・」

 研究員が答える。

 「・・・そうか。ならば特に問題ない。元々『これ』の心は『壊れ』ているからな。今更計画になんら支障はない。朽ちる寸前の廃棄物を再処理し、有効にリサイクルをしているのだ。精々我ら『エキドナ』の役に立って貰おう」

 軍服の女性が少女の納まるシリンダーケースの表面に指を這わせる。

 「・・・聞こえているか? 最早何も覚えてないか。かつては人類のために戦ったことも、己の悲願を成し得ようとした事も・・・哀れなものだ。元リヴァイアサン艦長アリーザ・イベリウスよ」


 女性は無機質なモノを見下げるようにつぶやく。


 成れの果ての人形はただ静かに眠り続ける。



 その瞼が僅かに薄く開いたのを知り得た者は誰もいなかった。