複雑・ファジー小説
- Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.6 )
- 日時: 2014/05/05 23:05
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 97g6Isa9)
浮かぶ。
漂っている。
蒼黒の長髪を浸し、母の内で微睡む胎児のように。
永い、永遠とも思える眠りから覚めるように、ゆっくりと瞼を開く。
ぼやけ、揺らぐ視界、裸体の身体全体を何か冷たい感触がひんやりと覆っている。
「————ッ」
声をあげようとした。
だが、口元には呼吸機らしいものを装着され、全身は得体の知れないチューブやコードなどの機械群に繋がれていた。
そして、何かの薬品のような液体に浸かっていた。
「————ッッ」
取り敢えず、自分が置かれている状況をつぶさに、冷静に観察する。
溶液の中から視える薄暗い室内。
立ち並ぶ用途不明な機材の数々。
・・・どこかの研究施設のようだ。
暫らくそうして視ていたが、己の意識の中にある違和感的なものに気付く。
自分の居場所はここではない・・・と。
何かがそう告げる。
囁くのだ。
ここに居てはならないと。
溶液に満たされた空間、鈍い動作で腕を伸ばすと、堅い感触に触れる。
これは、ガラス?
どうやら、カプセルのようなものに入れられているらしい。
容器のガラスはかなり分厚く、何回か手で叩いてみるがびくともしなかった。
まるで自分が標本のようにされている気分に陥って非常に不愉快な気持ちにさせられる。
不快さと、この閉じ込められた状況に対する仕打ち。
理不尽に抗うように胸の奥から怒りの感情が湧きだして、目の前が真っ赤に染まる。
「————ッ!?」
そのとき、ズキリと頭に————脳、更にその奥の部分に鈍い痛みが走った気がした。
そして、唐突に視界に————眼前のガラスに大きな亀裂が走り、突然派手に砕け散った。
甲高い破砕音と共に崩れ、少女は裸身のまま液体と共に容器の外に勢いよく放り出される。
「がはっ! ゲホッ、ゴホッ・・・今の、は・・・?」
リノリウムの真っ白い床面に投げ出された拍子に呼吸器が外れ、呑んでしまった液体を吐き出す。
とっさに立ち上がろうと足を出して踏ん張るが、溶液で滑り、うまくいかず倒れてしまう。
身体に纏わりつくチューブを無理やり外し、鉛のように重く、まるで生まれたての小鹿のように震える両手足を支える。
「・・・わたしは・・・」
酷く倦怠感を伴う身体に鞭打ち、無理矢理立ち上がる。
「・・・こんな処に・・・いては、ならない・・・」
それに、先程から感じる危険な気配。
いる。
この施設に。
本能的に相対してはならない『モノ』の存在を。
それは、自分にもよく理解できないものだったが、この場に留まる事は非常にリスクを被ることは判断できた。
よろよろと重怠い身体を引きずるようにして、作業台デスクの机上あった幾つかの患者衣のひとつを掴み、羽織る。
そして重厚に閉じられた、恐らく厳重なセキュリティロックが掛けられている無機質な扉の前に立つ。
監視カメラと思われる視線を横目に少女は念じる。
先程カプセル状の容器を破砕した現象。
あの時一瞬だが、思ったのだ。
————割れろ、と。
これが、何なのか。
だが、今必要な『力』なのだ。
再び強く、強く念じる。
「ぐぅうううっ!」
頭が割れそうな激しい痛みが襲うが、それでも構わず集中した。
そして叫んだ。
「開けぇえええっ!!!!」
瞬間、爆砕する扉。
吹き飛ぶ隔壁、宙に舞う機材群。
同時に施設内にけたたましい警報音が鳴り響く。
痛む頭を押さえつつ、無惨にひしゃげた扉から抜け出す時、室内を振り返る。
自分が納められていたカプセルの残骸。
破壊され少女の足元に転がる、その表示されていたプレートらしきもの。
『No.23nd Drago・Machina=Alsiel』
「・・・ドラグ・マキナ・・・アルシエル・・・?・・・これが、わたしの名・・・?」
何かが噛み合わない。
上手く言えないが、しっくりとはこない感覚だ。
少女は気になりはしたが、意識の片隅にそれを留めておき激しく警報が木霊する通路へと走り出した。