複雑・ファジー小説

Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.7 )
日時: 2014/05/07 11:56
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: BjWSzvYn)

 騒然とする施設内。

 重々しい装備の警備兵たちが通路を走り抜ける。

 身を潜めて進んでいく少女。

 
 目指すはは格納庫。

 この施設がどういった目的のものなのか判らないが、ドッグまでのルートが手に取る様に理解できた。

 導かれるように脱出経路が思考に浮かび上がり、難なくたどり着くことができた。

 これも、さっきの謎の力が働いている様だった。

 それだけではない。

 人の気配が察知でき、避けることができた。

 しかし、頭痛がだんだんと酷くなってきたのでこれ以上は使用は控えた方が良さそうだ。

 この力を上手く使えれば銃を持った兵士とも戦えそうだが、無謀なことはしない。

 今は一刻も早くこの場から脱出することが先だ。

 辿り着いた広大な格納庫。

 メンテナンスベッドには、巨大な人型機械がそれぞれに納められている。

 対竜種兵器、ドラグーンだ。

 何故かそういった知識が頭に浮かぶ。

 これは力に関係なく最初から知っている知識だったが、疑問が無い訳ではない。

 ここまでくる間にも考えていたのだ、自分が何者かという事を・・・。

 疑問符を浮かべつつも一機のドラグーンの前に立つ。

 全体的に流線型のデザインで水色の外装、最新の汎用機体を応用、独自に改良した機体『水蛟』(ミズチ)。

 それも漠然と理解でき、コックピットハッチを開き、乗り込む。

 おそらく、あのカプセル容器の中で刷り込み的方法な学習処置を受けたのかもしれない。

 湧いてくる知識に任せてコンソールを操作し、動力エンジンを稼働させてアイドリング状態に移行させる。

 「メインジェネレーター良好。このまま、この施設から・・・」

 コクピットのシートに身体を沈めた時、背筋を凍らせる視線に見舞われた。

 「!?」
 
 すぐさまコックピットのモニター画面を起動させ、ドラグーンのカメラアイで『それ』を捉える。


 「・・・」


 自分と同じ年頃の黒髪の少女が此方を視ていた。

 だが、異様なのは顔全体を覆い隠すのっぺらとした能面のような仮面。

 それなのに、己を凝視しているのが分かった。

 まるで品定めをするように・・・。


 身体が硬直した。

 駄目だ。

 『アレ』は危険な存在だ。

 その少女が乗り込んだドラグーンから視線を外さぬまま歩いてくる。

 凍り付いたように全身が固まっている。

 近づくたびに濃厚な殺気が伝わる。

 這い寄る。

 ————闇。
 

 とそのとき、外部スピーカーが脱走者を知らせるけたたましい警告音を捉えた。

 「————くっ!?」

 それが合図となり硬直が解け、身体が動き出した。

 瞬時にエンジン出力を全開にし、操縦桿レバーを握り、アクセルペダルを踏み込んでドラグーンを発進させる。

 機体を固定する拘束板をメリメリと引き千切り、バーニアを噴き上げ足を踏み出す。

 閉じられた格納シャッター向けて突っ込む。

 素早く手腕にサイドハンガーからバイブレーションソードを引き抜き、加速、超振動の剣が、分厚い隔壁を切り裂いた。

 施設外へと脱出するドラグーン、水蛟。

 眼前のメインモニターには、大森林が雄大に広がっている。

 背後部カメラアイの映像には、縦横に切り開かれた隔壁と六角多形体の迷彩色の巨大な建築物が映る。

 森の中に隠されるようにそそり立つそれは、秘密基地然した感じのものだった。

 これだけ派手に暴れてしまったからには直ぐに追っ手が掛かるだろう。
 
 高速で走る機体の中で思う。

 だが、それよりも気懸かりなのは、格納庫であった仮面の少女。

 脱出する際、最後まで此方を視ていた。

 そして思い出し、苦渋の表情と共に呟いた。


 「・・・嗤っていた・・・」


 嗤っていたのだ。

 
 まるですべてを見透かすように。


 無機質な仮面の奥に隠された双眸が。


 いつまでも見つめていたのを。