複雑・ファジー小説

Re: 『竜装機甲ドラグーン』 テラバーストディザイア ( No.9 )
日時: 2014/05/07 18:48
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: e7NtKjBm)

 ウロボロス極東支部第三メディカル・ルーム。

 「・・・記憶を失っているというのか?」

 カガミは主治医の女性ヤクモ・カミジョウに問いながら、病室内を見回せる透過ミラー越しに件の少女を視る。

 少女はベッドでジナたち三人と会話を交わしているが、スムーズにはいって無い様だ。

 「ええ。会話は出来ますし、一般常識や知識は有るのですが、自分自身に関する事は名前だけのようです・・・」

 ヤクモも少女に視線を移す。




 「ねえ、シエルちゃん。他に何か思い出せないかな?」

 ジナが困ったように聞く。

 「・・・わからない・・・憶えていない・・・」

 少女シエルは頭を振る。

 シエルという名は、うろ覚えの記憶から必死で引っ張り出したのだ。

 思い出すのは足元に転がるプレート。

 何かが表記されていて、ぼやけて読み取れなかったが最後の文字の部分は何とか理解できた。

 それは後ろの所だけだが、シエルとだけ読めた。

 いまいちピンと来なかったが、多分自分に当てられたものだという事が納得できたので、そう名乗った。


 カガミは病室に入室し、少女シエルのベッドの傍に寄る。

 「・・・私はこのウロボロス極東支部の局長、カガミ・シノウラという者だ」

 「・・・局長・・・?」

 首を傾げるシエルに構わず話すカガミ。

 「君が乗っていた脱出ポッドが回収された海域付近でドラグーンの機体の残骸がサルベージされた。その機体は激しく損傷しており、何かと戦闘を行なった可能性がある。そのことに心当たりはないだろうか?」

 カガミの問いに少しの間、思考するシエル。

 「・・・わからない。何処から来たのか、今まで何をしていたのか・・・思い出せない・・・わたしが何者かも・・・」

 そして力無く答える。

 (嘘は言ってるようには思えない・・・一体、この少女は・・・)

 カガミは少女の瞳を真っ直ぐ視ていた。

 不安と怯えが見て取れたが、芯が通った凛とした輝きがあった。

 「・・・そうか、無理はせず身体を休めてくれ。私はこれで・・・」

 そう言い残しカガミは病室を去った。

 病室の外で待つヤクモと話す。

 「・・・診断の結果は?・・・やはり解析不能か・・・?」

 「何度も試しましたが、結果はすべて駄目です。彼女の遺伝情報に合致する生態系はありません。肉体構造、精神機構は人間と同じですが、それ以外はなんとも・・・しかし気になる事が・・・」

 ヤクモは声を潜める。

 「・・・気になる?・・・それは?」

 「彼女の細胞組織をサンプリングしたのですが、僅かですが酷似しているのです。『竜種細胞』と・・・」

 怪訝な表情をするカガミ。

 「ドラグーンのパイロットなら、在り得るだろう。抗体組織の摂取は必要不可欠だからな。次第に細胞変化もするだろう」

 「はい、普通ならば。ですが彼女の場合は逆に変化していないのです。常に一定なのです、最初から生まれ持ったように。・・・この意味が解りますか・・・?」

 カガミは眼を見開く。

 「まさか、彼女が『竜種』だと・・・!?」

 「・・・それはなんとも言えません、細胞の特殊変異という可能性もあります。ですが、普通の人間ではない、ということは確かです。警戒はしたほうがよろしいかと・・・」

 ヤクモは注意を促す。

 「・・・ああ、そうだな。監視は付けよう」


 そう言ってカガミはその場を後にした。












 通路を歩いている途中で、ふと立ち止まり、呟く。




 「人は過去に竜種細胞から己の現身たる片割れ、ドラグーンを創り上げた。では、逆に竜種から人を創り上げることも可能ではないのか・・・?」





 そして、考えを振り払うように再び歩く。






 「それを為せるのは『神』か『悪魔』の類だろう・・・」