複雑・ファジー小説

Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 Ⅱ 〜ジェネシスの再創世〜 ( No.14 )
日時: 2014/04/13 12:42
名前: キコリ ◆yy6Pd8RHXs (ID: gOBbXtG8)

「……あのさぁ、さっきから何?」

 シャーロッドが渋面で、目の前にいる男に呟く。

「うざったいんだけど」

 ティアがジトーッとした目で、目の前にいる同一人物の男に呟く。
 声は一切の抑揚がなく表情も何も窺わせないが、その目には明らかに怒りと呆れが混じった感情が篭っている。

「……」
「……」

 アルバーンとアストライアは、何となく哀れそうな目でその男を見つめている。
 その男はスキンヘッドで顔面に古傷らしきものを負っており、体中がまるで風呂に入っていないかのように汚れている。
 現在、シャーロッドが魔力を使って作り出した光の鎖で拘束されている。

 この場の空気は、正に最悪という言葉が相応しい。
 何故このような空気になってしまったのか。それは数十分前に遡る。


  ◇ ◇ ◇


 カルマ高原の湖で小休止をしていた一同。
 事態が動き出したのはその時だった。

 最初にティアが、何処からか自分たち、或いは自分に向けられる視線に気付いた。
 その視線は全くと言っていいほど殺意がない。それも人間によるもので、魔獣などの独特な視線ではない。
 周囲を見渡すが、見えるのは風に揺れる草原の草と複数の岩だけ。

「どしたの?」
「何でも」

 アルバーンがティアの行動に気付いた。
 が、今のところ害は無さそうだと踏んだ彼女ははぐらかした。

 それが事の発端であり、これより事態は更に動く。

 小休止を終え、再び一同は歩き出した。
 カルマ高原の何処かにいる移動民族を見つけるために。
 だが、難航していた。この広いカルマ高原では、小さな移動民族を見つけるのは難しい。
 その時だった。事態が更に動き出したのは。

「うーん……?」
「ロッド、どしたの?」
「いや、さっきから視線を感じるんだけど……」

 シャーロッドが、私も視線を感じると言い出したティアと周囲を見渡す。
 置いてけぼりにされているアルバーンとアストライアは、訳が分からず見詰め合って首を傾げるばかり。

「あっ!」
「あ」

 その時、何かに気付いたらしいシャーロッドとティアが同時に声を上げた。
 どうかしたのか。再び問いかけるアルバーンを無視し、二人は同時に走り出す。
 走る足と目線が向いている先は、すぐそこの岩——ではなく、その岩の裏だ。

「ひぃい!?」

 二人は挟み撃ちにせんといわんばかりに、岩の裏側へ回り込んだ。
 そこには件の男が、尻餅をつきつつも逃げ腰の態勢で二人の姿を認めながらそこにいた。


  ◇ ◇ ◇


 その後、シャーロッドの意向で自分たちを追跡していた男『アラン』を逃がすことにした。
 が、再三忠告しても追跡をやめなかったので、遂にシャーロッドはアランを捕まえ事となった。
 そして今に至る。

 アランは何を聞かれても、ただ黙っている。
 筋骨隆々、スキンヘッド、色黒。何れの要素も所謂『コワモテ』おじさんと言った感じだが、表情だけは弱弱しい。
 この場にいる一同を怯えているようだ。

 事態が展開せず困りかけてきた丁度その時、一同がいる場所が影に包まれた。
 分厚い雲でも来たかと思った一同だが、同時に先ほどから聞こえているプロペラ音と下降気流が強くなり、その考えを真っ向から否定される。上を見上げれば、一機の大きなヘリコプターが下りてこようとしていた。

 やがてすぐ近くに着陸した。空色のボディに『国際指名手配犯確保団体』というステッカーが貼られている。
 中から、警官らしき人物が数人出てきた。

「指名手配犯の確保、ありがとうございます!」
「へっ?」

 いまいち、話が見えない。

「こちらは懸賞金となります! それでは!」
「あ、ちょっと!」

 警官はさっさとアランを連行し、再びヘリコプターに乗って去ってゆく。

 突然の出来事に、皆は暫く硬直していた。
 一通り考えられることをまとめたシャーロッドは、黒いスーツケースを持ったままティアたちを振り返る。

「つまり僕達は、僕達の知らない指名手配犯を捕まえたってことになるんだよね」
「多分」

 ティアが後ろで手を組み、目を閉じながら肯定する。

「あー……ねぇロッド、そのスーツケース何?」

 アルバーンが何やら縮こまりながら、シャーロッドがいきなり現れた警官から受け取ったスーツケースを指さす。
 風のように来て去ってゆくような出来事に対応し切れなかったシャーロッドだが、記憶が正しければ懸賞金と言っていた。
 恐らくこの中には、みっちりと札束が入っている可能性が高い。

「懸賞金って、あの人言ってたよね。ちょっと開けてみようか……」

 覚悟したシャーロッドは、震える手でスーツケースをあける。