複雑・ファジー小説
- Re: 世界樹の焔とアルカナの加護 Ⅱ 〜ジェネシスの再創世〜 ( No.6 )
- 日時: 2014/04/01 21:02
- 名前: キコリ ◆yy6Pd8RHXs (ID: gOBbXtG8)
何だかんだでその後、一週間の時が経った。
手始めに国王の許可、協力を元にサディスティー王国の全域でシグナとマルタを探したが、やはりというか収穫はゼロ。
何か分かり次第使者を送るという約束で、シャーロッドはいよいよ王国を離れることとなった。
現在彼に同行しているのは、予てより約束していたアルバーンとティアの二人。
現在地は王国とカルマ高原の国境にある迷いの森といわれる樹海で、一同は特に抵抗も無くそこに踏み入っている。
カルマ高原の自然の美しさは、ワールドツリーフォートと呼ばれる世界樹の麓の大地にも劣らない。
初見では何もない場所だと思われがちだが、他の国は持っていないものをカルマ高原は持っている。
訪れた人々は皆、その美しい自然に心を打たれる。
今のところカルマ高原では、移動民族が暮らしている。
それ以外に人は見当たらず、現在の文明に相応する技術も何も取り入れられていない。昔のままの姿である。
因みにティアは、迷いの森の道無き道を全て網羅している。
過去に一度、ここへ迷い込んでしまった経験があるとの事。
「ん、ここなら大丈夫そう」
やがて先導するティアは、開けた場所にあった岩に座り込んだ。
妙に落ち着いた様子の彼女に、アルバーンとシャーロッドは焦った。
迷いの森は、強力な魔獣が生息していることでも知られている。
このようなところで無防備に休んでは、忽ちその魔獣たちの餌とされるのが関の山だからだ。
「て、ティア〜、こんなところで休んじゃ……」
「大丈夫。それ見て」
もう少し何か対策を練らないか。
そう諭すアルバーンを尻目に、ティアはアルバーンたちの横に聳え立つ大木を指さした。
大木がどうした。そう言いたげな二人が重々しく首を動かし、右を振り向く。
すると見えた光景は、そこに聳え立つ大木が不思議な光に包まれている光景だった。
「え? 何これ」
シャーロッドは首を傾げた。
今まで様々な本を読んできたのだが、そんな彼でもこの大木の事は知らない。
ましてやアルバーンに至っては、ただ単純にその大木の美しさに見惚れている。
「生命の大木。……魔よけって考えればいい」
ティアは簡単な解説を終えると、懐から一冊の本を取り出し、その場でそれを読み始めた。
解説聞いたシャーロッドは「あぁ、なるほど」と相槌を打っているが、アルバーンはまだ首をかしげている。
仕方ないので、代わりにシャーロッドが詳しい解説をすることに。
「つまり、魔獣が寄ってこないんでしょ? ほら、前の冒険者がテントを張った痕跡もあるし」
「あ、なるほどねー」
ここでようやく、アルバーンも理解できた。
大人なのだから、もう少しシャキッとしたらどうだ。そう思ったティアが、また盛大に溜息をついた。
そんな彼女を見て、アルバーンはキッとティアを睨んだ。
その視線を感じ取ったティア。渋々本を閉じ、アルバーンに向き直る。
「何」
その気の抜けたような呼びかけに、アルバーンはさらに眉尻を吊り上げた。
「何、じゃない! 溜息をつくと幸せが逃げるんだよ!」
何を言うかと思えば。成り行きを静観していたシャーロッドは、思わずその場で転びそうになった。
一方でティアは、冷静に発された言葉の意味を飲み込んで反論に出た。
「じゃあアルバーンは溜息つかないの?」
「当たり前だよ! ボクはちゃんと自重してるもん!」
「ふうん……男の子だから? でも、溜息をつかないと死ぬ」
「嘘だ」
「そんなくだらない嘘、ついてどうするの」
因みに、ティアはアルバーンを男の子と言っているが、アルバーンは女性である。
趣味か深い意味があってかは曖昧なところがあるが、彼女はいつも男装をして毎日を過ごしている。
シグナにだけはばれていたが、今のところも彼女の男装は誰にもばれていない。
ティアとアルバーンのため息についての口論が続く。
そんな中、これは長くなりそうだと踏んだシャーロッドは一休みすることにした。
本当は野宿などしたくはなかったが、事此処に至っては仕方ない。
焚き火の準備とテントを張る準備、少し遅めの夕飯の準備に取り掛かる。