複雑・ファジー小説
- Re: 銃声と道化師 ( No.1 )
- 日時: 2014/07/05 14:27
- 名前: ワッフル ◆uigiXIaCSo (ID: gOBbXtG8)
貴方となら何処へだっていける。たとえどんな苦難が待っていようとも。
貴方となら、乗り越えられる気がする。いつもずっと、二人で一つなのだから。
そう思っていたから、私は彼を信じていた。
「もう、奏歩くの遅い!」
「あはは。怜奈、そんなに急がなくて……て、うわ!?」
高校一年のときの夏休み、私『速水怜奈』は彼氏の『長谷奏』と、町のはずれにある海辺にやってきた。
自然だけが溢れるここで、私や私の友達が嘗て、秘密基地だって言ってみんなでログハウスを建てたんだ。
秘密って言うほど秘密にはなってないけど、ね。出来上がった結果は普通に家だ。
今回は、奏ちゃんにそれを見せたくてここまで来た。
一日に数本しか通らない電車に乗って、終点の駅で降りてから歩くこと数分。
病気になりそうなほど強烈な日差しの下、歩くほどに、草木の香りが辺りを満たしていたのが磯の香りへと変わる。
早く見せたいのに、後ろからのんびりついてくる奏ちゃん。彼の手を握って、私は急かすように走る。
「うお、すげぇな!」
「でしょー」
やがて海が奏でる漣の音が大きくなって、浜辺が見えてきた辺りで、私のログハウスが顔を覗かせた。
屋根や壁はあっても、扉や窓はない。火や電気はないけど、全て自然に頼れば十分に生活できる。
近くには天然の温泉もあるし、食用の木の実や作物だってあるし、当然海に行けば魚だっているし、普通に寝泊りが出来る。
そんな私のログハウスを見て、奏ちゃんは凄くビックリしてる。
「……で、ここで夏休みを過ごそうっての?」
「うん!」
今回ここへ来た理由は、このログハウスを見せたいだけじゃない。
実際にここで夏休みの間、奏ちゃんと一緒に暮らしてみたいんだ。
何が起こるかなんて分かったものじゃないけど、奏ちゃんと一緒ならきっと大丈夫。ううん、絶対に。
「ちゃんと着替え、あるよね?」
「あぁ。ちゃんと準備してきたよ」
奏ちゃんは着替えとかが入った黒いキャリーバッグを叩く。
「熱ッ!」
「うふふっ」
当然、黒だから熱を吸収する。
中身も熱いんだろうけど、外側も相当熱い。
夏休みが終わるまでの間、私達はここで生活することになる。
あんな事やこんな事とか、色々できるかも——なーんて、期待する私がいたりいなかったり。
「うわ! ちょっと、俺今汗掻いてるんだぞ?」
「そんなの、気にしないもん」
だからかどうかは分からないけど、途端に奏ちゃんの事が恋しくなって、彼をぎゅっと抱きしめた。