複雑・ファジー小説

Re: 銃声と道化師 ( No.3 )
日時: 2014/05/03 22:49
名前: ワッフル ◆uigiXIaCSo (ID: gOBbXtG8)

 ————とまあ、こんな調子で夏は過ぎていった。

 一日ずつ。少しずつゆっくりと。
 エッチに発展しそうになってもやめて、会話が無いかと思えばいつの間にか会話が元に戻ってる。
 そんな毎日の繰り返し。
 だけどある日、奏ちゃんの元に凶報が届いたんだ。

 それは8月の1日の事だった。

「っ……」
「ごめん……怜奈!」

 その日の私は、駅にいた。
 一日に数本しか通らない電車を待っているのは、荷造りを終えた奏ちゃん。
 奏ちゃんは泣きながら、同じく泣いている私をギュッと抱きしめてくれる。

 奏ちゃんはやがて、電車に乗っていってしまった。


  ◇ ◇ ◇


 奏ちゃんが帰った先は、今の彼の家じゃない。
 帰った先は、奏ちゃんのおばあちゃんがいるところ。ここから凄く遠い。
 会いに行こうと思って会える距離じゃないのが明白なほど。

 おばあちゃんが、病気で倒れちゃったんだって。

 そうして、私を置いていった。


 ————会いたい。でも会えない。


 ————胸が苦しい。今にも息が止まりそうだ。


 私は一人で、このログハウスでの夏の終わりを迎えることになる。
 愛した人と遠距離になる。こんな結末なら、エッチのひとつでもしてあげればよかった。
 聞けば、返ってきてほしい期日は予てより聞かされてたんだって。

 ————何で、私に言ってくれなかったんだろう。

 その疑問だけが、私の脳裏を渦巻いている。
 もしかしたら、私を悲しませたくなかったのかもしれない。
 だとしたら、今私は凄く悲しい。

 ————何で、言ってくれなかったんだろう。もっとしてあげれること、あったはずなのに。

 涙が止まらない。
 ここにいても、私の胸が締め付けられるだけだ。

 もう、帰ることにした。


 このときの私は知らなかった。
 奏ちゃんの姿が、既に滲んでいたなんて。