複雑・ファジー小説

Re: 銃声と道化師 ( No.5 )
日時: 2014/07/05 14:20
名前: ワッフル ◆uigiXIaCSo (ID: gOBbXtG8)

 私は翌日、奏ちゃんとよく一緒に言っていたカフェ亭コトリまでやってきた。
 それはもう、自分でも信じられないくらいに必死だった。
 今日という時間を作り出すのにあらゆる犠牲を払った。ただ奏ちゃんに会えるということだけが脳内を支配してて。

 ————でも、答えは簡単。待ち合わせは4時間前で、ここには私1人だけがいる。所詮はそれだけのことだ。

 街行く人々は、稀に私のほうを見ては様々な視線を向けてくる。
 カフェ亭の前に広がる大通りを往復する人なら尚更。
 私を見て嘲笑ったり、可哀想に、と一言だけ呟いていく人がいたり、それはもう様々だ。

 何度も何度も、同じようなメールした。
 だけど奏ちゃんから答えは返ってこない。時間だけが過ぎていくんだ。
 この答えを受け入れることで、私は前に進めるかもしれない。
 簡単なことだ。奏ちゃんは、私を捨てたんだ。でも、信じられない。認めたくない。
 私の事を愛してくれた奏ちゃんが、私を捨てるなんて————

 やがて日は暮れ、星空が見え始めた。
 私はカフェ亭から離れ、近くにあった公園のブランコに座ることにした。
 さっきから溜息しか出ない。これじゃあまるで、恋する乙女よろしくじゃないの。
 皮肉にも、現状的には合ってるけど。

「あれ? 怜奈ちゃん?」

 聞き慣れた声がした。
 けど今の私には、地面に落ちた視線を持ち上げる気力さえ残っていない。
 きっと声の持ち主は綾ちゃんだろう。

「おーい、どうしたー?」

 綾ちゃんは私の頬を手で包んで、顔を持ち上げた。

「ちょ、どうしたの?」

 何があった。そんな質問に答えたくない。
 どうか察してほしい。
 答えるだけで、涙が溢れそうだから。
 でも、もう私は泣いていたみたいだ。
 綾ちゃんが私の目元を拭う。そのハンカチは、明らかに濡れている。

「どうしたの? 奏君と何かあったの?」
「うぅ……察してよ……答えさせないで……」

 口に出すと、奏ちゃんが私を捨てたという答えを認めてしまいそうだったから。
 だから、私は口に出して言いたくなかった。
 すると綾ちゃんは不意に、私を優しく抱きしめてくれた。

「綾ちゃん……?」
「もう、泣きたかったら私の胸で泣いていいから。まずは落ち着いたら?」

 その後、私は涙が止まらなかった。


   ◇ ◇ ◇


 綾ちゃんに慰められて、私は何とか落ち着きを取り戻した。
 その後、何も会話は交わしていない。
 綾ちゃんはただ黙って、私を家まで送ってくれたんだ。

「おばさん、今は何も聞かないであげてください」
「あら……」

 ママが私と綾ちゃんを出迎えた。
 その際、綾ちゃんがママに代わりに伝えたいコトを伝えてくれた。
 ママも、分かってくれたのかな。

「分かったわ。ありがとうね」
「いえいえ、それでは! じゃあね怜奈ちゃん!」
「うん……バイバイ」
「あはは、やだなぁ怜奈ちゃんたら。そこは"おっぱいいっぱい"って言わなきゃ!」
「も、もう……学校のネタをこんなところにまで持ち込まないでよね……」

 こんなとき、綾ちゃんのキャラが私の傷を癒してくれる。
 少しだけ、笑うことが出来た。