複雑・ファジー小説

『“私”を見つけて』06 ( No.11 )
日時: 2014/04/28 20:47
名前: マヒロ ◆eRcsbwzWZk (ID: g2Ez2oFh)

「ん……」

 いつの間にか失っていた意識を取り戻すと、私は十年前と同じように白い天井を目に入れた。また、倒れたのか。そう認識したのは同じ部屋の椅子に蓮さんがいるのを確認してからだった。
 寝ているのか、俯いているせいでサラサラしてそうな枯茶色の髪が顔をおおっている。私はといえば、もうすっかり具合は良いので起き上がると、ベッドがギシリと音を立てた。その音で蓮さんも顔を上げる。彼は私を見て少しだけ目を瞠り、立ち上がった。

「もう頭痛はしないか?」
「うん。ここは病院? 私、施設で倒れたんだよね?」
「ああ。まだ半日しか経ってないから親御さんの心配はないぞ。……何か、思い出したか?」

 彼の言葉に私は頷いた。思い出したといってもほんの一欠けらくらいのもので、曖昧なものだ。あんなに頭が痛かったのにこれしか思い出せないなんて、と少し落ち込んだ。
 だがもうすぐ門限の時間だったため、私は蓮さんの車に乗りながら話をすることにした。

「あのウサギは、記憶をなくす前に両親に買ってもらったの。事故に遭ったときも、あれを持ってた」
「買ってもらったときの記憶はあるのか? その時に両親の顔は見えたか?」
「……どちらもないよ」

 事故に遭ったときの話をしたけど、両親の声すらわからなかった。ただ、がやがやと騒がしい中で誰かが私の名前を必死に呼んでいたことしか覚えていない。
 今回思い出したのはそれだけだと伝えると、彼は静かに相槌を打った。

「——ほら、着いたぞ。また明日な」
「ありがとう。また明日」

 家の近くに着くと、私の身体を労わるように車はそっと停まった。両親にこのことがバレるのは厄介なので、家の前までは送ってもらえない。そして家の近くには長居しないという暗黙のルールがあり、私が助手席から降りれば蓮さんの黒い車はさっさとその場を去った。