複雑・ファジー小説
- 『“私”を見つけて』07 ( No.13 )
- 日時: 2014/06/07 14:24
- 名前: マヒロ ◆eRcsbwzWZk (ID: g2Ez2oFh)
「菫、夕飯ができましたよ」
「はい。すぐに行きます」
私の家は大きな財閥で、家も三人で住むには大きい。けど、私の記憶にある限りでは、使用人を雇ったことはない。夕飯を呼びに来るのが身内だということは、周りの友人宅を見ていればとても幸せなことだった。
読んでいた本を閉じ、居間に向かう。今日は父様も一緒に食事できるようだ。
「いただきます」
三人で食卓を囲んで、食事をとる。
いつもここで色々な話をするのだが、今日は私の友人の話になった。二人とも私に親しい友人がいることは知っているのだが、まだ名前も顔も知らない。勿論その親しい友人というのは鈴菜のことで、いつも話しているのはほぼ彼女の話なので、その彼女の紹介をすることとなった。
「で、その彼女の名前はなんというんだ? 今度こちらにでも招こうじゃないか」
「五十嵐鈴菜という可愛い子です。私には持ってないものを持っている気がして……会ってすぐに仲良くなったんですよ」
しかし鈴菜の名前を出した途端、両親の顔色が急変した。私もつられて険しい顔をしてしまう。
これ以上この話を続けてはいけないと察し、すぐに話をそらした。
「そうそう、今日は数学の答案返却があったんですが——」
「その五十嵐さんとは、いつからの付き合いなんだ?」
お父様は頑固だけど、せっかちではない。それ故に、今回のように私の言葉を遮るなんでことは珍しかった。
大きな驚きを隠しながらも、私は質問に答えた。
「え? えっと、高校からですが……」
「……そうか。あちらの家にはお邪魔しないように。今の重要な取引先でな、菫が無礼な行いをするとは思えないが、粗相があってからでは遅い」
「はい、わかりました。気をつけます」
わざわざこんな忠告をするなんて……余程大切な取引相手なんだろう。でも、五十嵐家はここ数年で名が上がって来た中小企業。言っては悪いけどそんな所に細心の注意を払うだろうか?
もしかしたら、他の理由があるんじゃ——と思った私は、記憶探しなんてしているから疑り深くなっているんだろうと片づけた。
——後に、この違和感の原因を突き詰めれば良かった、と後悔することも知らずに。