複雑・ファジー小説
- 『“私”を見つけて』09 ( No.18 )
- 日時: 2014/06/07 14:26
- 名前: マヒロ ◆eRcsbwzWZk (ID: g2Ez2oFh)
私はいろいろな不安を抱えたまま、夏休みに入った。
でもあの事故以来、鈴菜に近づく怪しい者はいないようだし(蓮さんからの情報より)、やはり一之宮家の者の仕業なのだろうか? 私に犯行を見られたから様子を窺っているのかもしれない。
夏休みの宿題を進めながらそんな思考を巡らせていると、電子音が鳴った。ディスプレイには“五十嵐鈴菜”と表示されていた。
『もしもーし、菫ちゃん? 鈴菜だけど、今日空いてる?』
「え? うん、今日は丸一日空いてるけど……」
『じゃあ一緒にプール行こうよ! クラスの子たちも一緒なんだけど』
「うん、もちろん行くよ」
『やった! 一時に私の家の車で迎えに行くから待っててね!』
「わかった。また後でね」
◇
あっという間に約束の時間になり、時間通りに五十嵐家の車が我が家の前に到着した。鈴菜からはクラスメート数人が来るとの話を聞いていたので、車内に入って人数を確認すると、(私を除く)女三人と男三人の合計六人だった。
——そしてそのプールというのは学園内の施設らしく、他にも知り合いがいた。市民プールに行くとは思っていなかったけど、まさか学園内の施設に来るとは……。結局、夏休みだろうとクラスメートに学園で頻繁に会っているのがここの生徒の現状らしい。
「あは、皆で来たのに結局二人で遊ぶことになっちゃったね」
「場所がここなら、別に他の人たち誘わなくて良かったんじゃない?」
「だって皆なんだかんだ自宅から学園遠いから、行くところ同じなら一緒にどうぞって思って……」
「ふふ、本当にお人好しだね、鈴菜は」
私は鈴菜のそういう所に惹かれたんだよ。なんて、改まって言いそうになって止めた。
別に今までの友達に不満はなかったけど、それ程仲良くしてこなかったのも事実。私は他人に対して愛想笑いをすることが多かった。
でも、それを覆してくれたのは鈴菜。なんで鈴菜にこだわっているかはわからない。それでも、他の子たちとは違う何かがあった。
その輝かしい笑顔も、人情的な性格も、友達がたくさんいることも……私とは、正反対のもの。私の足りない部分を補ってくれるかのような鈴菜を、私は好きになったに違いない。
「ねえ、最近何か困ったことはない?」
「困ったこと……? うーん、ないと思うけどー……」
「……そっか。なら良かった」
「菫ちゃんったら、変なのー」
好きだから、私が護りたい。あの事故以来何もないのは良いことだけど、それは一之宮家が関係しているかもしれないという疑問を湧きあがらせる。
もし、原因が私だったら……私が、彼女から離れるしかないのだろうか。——いや、それは違う。離れたら護ることさえできないから、その原因を断ち切るしかないんだ。
でも、もしその原因が——
「菫ちゃん? どうかしたの、ぼーっとして」
「えっ? いや、何も、ないよ?」
「そっか! あのね、昨日中学の時のクラスメートと会って——」
私は鈴菜の弾んだ声を聞きながら、不安定な心を落ち着かせていた。
“たられば”なんていくら考えたって無駄だ。結局は行動しなければ結果なんて出はしないのに。馬鹿馬鹿しいな、と思って余計な思考は中断させた。
そうして流れるプールにぷかぷかと浮かびながら世間話をしていると、見覚えのある女の子に一緒にビーチバレーをしないかと誘われた。そうだ、この施設は外にも広がっているんだった。勿論! と鈴菜が返事をして、私の手を引っ張って行った。
***
蓮さんのイラストも描いたから更新しないと…