複雑・ファジー小説
- 『“私”を見つけて』10 ( No.20 )
- 日時: 2014/06/07 14:28
- 名前: マヒロ ◆eRcsbwzWZk (ID: g2Ez2oFh)
夏休みも中盤を過ぎた頃、私は蓮さんに呼び出された。場所は駅近くの地味な喫茶店。
私より先に来ていた彼は眼鏡を外し、髪にワックスをつけて、学園と真逆の雰囲気を漂わせていた。私服でいるから尚更だ。
いつもの胡散臭い笑みはそこになく、こちらだと手を振られた。
「こんにちは」
「こんにちは、菫さん。よく俺だってわかったな」
「確かに雰囲気変わりすぎて見間違えたけど……そこまで?」
「ああ、大体は気付かれないな。そうなるようにこっちだって雰囲気変えているんだが」
万が一のことを考えて、彼も変装もどきをしてきたのだろう。学園の生徒や教師、億が一でも両親に三宅先生とこうして会っていることがバレたら大事に至ってしまう。
ブラックコーヒーをすすり、期待外れだというように彼はため息を吐いた。意外と悪戯好きなのかな、この人。
私も店員さんを呼んでカフェオレを頼んだ。私にあんな苦いものは飲めない。
「それで、何の用?」
「今回は君の記憶探しの件ではなく、個人的に頼みたいことがあるんだが……俺の副業を覚えているかい?」
「……ああ、確か探偵だっけ?」
蓮さんは頷き、写真を出した。写真にはダンディな中年男性が写っていた。
「実はその副業の方で浮気調査を頼まれてね。この写真の男性の奥さんに頼まれたんだが、どうやら確たる証拠が欲しいらしい」
「……もしや、その証拠を得るために私に協力しろって言うんじゃ——」
「その通りだよ、菫さん。彼は浮気相手とある店で落ち合っているらしくて、そこ以外では証拠が掴めない。その店が厄介でな、男女のペアでないと入れないらしいんだ」
「それで私を利用するわけね……。私の身の安全は保障してくれるの?」
それは勿論、と彼は頷いた。断る理由もなく了承したが、断っていてもまた脅されて無理矢理受けていたのだろうか。
そうと決まったら早速行くぞと言われ、私たちは喫茶店を出た。
***
テスト準備期間&風邪を引いたということがあり、更新が少し遅れました;