複雑・ファジー小説
- 『“私”を見つけて』13 ( No.25 )
- 日時: 2014/06/07 14:30
- 名前: マヒロ ◆eRcsbwzWZk (ID: g2Ez2oFh)
長くて退屈な夏休みも終わりを告げ、すぐに体育祭は始まった。始業式から二週間の間に役職も種目もスムーズに決まったが、それは借り物競走に参加しなければいけない私には辛いものだった。
その他に学年種目や全校種目もあり、疲れたからといって昼寝する時間もない。中途半端な休憩時間で、私はほとんど鈴菜と話したり彼女の競技を傍観していた。
——ああ、もう個人種目だ。憂鬱な気持ちを抑え、私は招集場所に向かった。
「菫ちゃーん! 頑張れーっ」
鈴菜は無邪気にも私の応援をしている。可愛いけど、そんなに大声だと無駄に注目受けるからやめてほしい……。
出席番号順に並んでいるのだが、偶然にも私は先頭にいた。当たり障りない順位につければいいけど。そう切に願いながら、足の裏に力を入れた。
私が走る距離は最低でも百メートルある。大した距離じゃないが、問題はゴールするまでに借り物をしなければならないということだ。五十メートル走ったところに紙が用意されているので、その中身を見ればいい。
ただし、それには“数学教師”と書いてあった。困ったことにその条件に当てはまる人を私は一人しか思いつかない。高等部の教師は一学年の担当しか知らなかった。私は溜め息をつき、彼を探した。
「っ三宅先生!」
「どうしたんですか?」
「借り物競走で、一緒に走ってくださいっ」
学園内で猫を被っている彼が断わるはずもなく、私たちは一位でゴールした。——というか。
「せんせっ、走るの、早すぎです!」
「あはは、すみません。後ろの人たちに追い抜かれそうだったので、つい」
「はあ……とにかく、ありがとうございました」
嘘だ。最初から全力疾走して、すぐに二位の子たちと差を大きく広げたはずだ。でもまあ、彼のことだから面倒事に巻き込んだのを理由に嫌がらせをしていたのかもしれない。
私以上に喜んでいる鈴菜のもとに行こうと足を向けると、反対側に引っ張られているのがわかった。そういえば手を繋いだままだった。
「付き合わせてすみませんでした。手を離してもらえますか?」
「…………」
そのままじっと私の手を見る蓮さん。離しもしないで、どうしたんだろう。多少動揺して固まっていると、彼は自分の不可解な行動に気付いたようだった。
「っ、引き止めてすみません。……頑張ってくださいね」
「あ、はい……?」
彼は名残惜しそうに手を離した。一瞬だけ、強く握られたけど。最後の一言も、何か意味があるような気がしてならない。何を伝えようとしたんだろう?
——わからない。だって以前も九野先生に言った通り、私は蓮さんのことを何も知らないんだから。
だから彼の可笑しな発言には目を瞑り、親友がいる場所に駆け足で向かった。
***
久しぶりの更新!