複雑・ファジー小説

『“私”を見つけて』14 ( No.26 )
日時: 2014/06/08 19:14
名前: マヒロ ◆eRcsbwzWZk (ID: g2Ez2oFh)

「文化祭ももうすぐだねー」

 もう九月の中盤だ。十月には学校の大イベントである文化祭があることを思い出した。
 私は学園の近くに自宅があるが、鈴菜は最寄駅から電車に乗って登下校している。学園から最寄駅は徒歩十五分ほどなので、私と彼女は途中まで同じ道を進んでいた。
 もちろん道中には愛敬の生徒だけではなく、お年寄りから幼い子まで歩いていた。私たちの前には親子が歩いている。横断歩道などは見渡しが良く、割と大きい道なので事故が起きた話など聞いたこともない。
 だが、それは突如として私たちの目の前で起ころうとしていた。

「け、圭太ッ!?」

 幼い子供とは不可解な行動が多い。だがしかし、歩行者用の信号が渡るなとばかりに真っ赤になっているのに、少年は何かを追うようにして車道を渡っていた。
 私と少年の母親(だと思われる)が硬直していると、彼のもとには私の親友である鈴菜が向かっていた。運動神経が良いだけあって、こういう対応も早いようだ。だが、彼等には大型トラックが迫っていた。
 私は鈴菜の名を叫ぶことしかできなかった。それは少年の母親も同様だ。私たちは事故現場をただ唖然と見つめることしかできなかった。

「いたた……何とか、無事?」
「っママー!」

 運良く彼等は生きていた。向こう側の歩道あたりにその身が投げ出されていて、もう車は来ないかと辺りを見ると、信号機は青に変わっていた。
 今度こそ少年は横断歩道を無事渡る。恐怖のために号泣して母親に抱きついていた。
 私も鈴菜のもとに駆け寄ろうとするが、何故だか眩暈がする。頭には警報が鳴っているように痛い。よくこの頭で彼等の行動が把握できたものだ。
 事故の一部始終が脳内でリピートされている。何度も何度も。そうやって突っ立っている内に鈴菜から私の方へ来ていた。

「菫ちゃん、心配掛けてごめんね。——おーい、菫ちゃん?」
「っく……いた、い」

 鈴菜が心配そうに声をかけてきたが、それに答えることもできない。頭痛は悪化していた。
 ただ立っているだけだというのに、走馬灯のように知らない思い出が脳裏を通る。以前蓮さんと行った児童養護施設で見つけたウサギのぬいぐるみ、私の名前を呼ぶ知らない声——全てがうるさすぎる雑音と共に過ぎた。

「痛いって……頭が? どうしたの菫ちゃんっ」
「嫌だ、何これ…! う、ああッ」

 頭を抱え、遂には立っても居られなかった私は、呻き声をあげながら地面に顔を近づけていた。
 私は事故や記憶が入り交じって混乱していた脳の思考を停止するに意識を失った。

***
展開を早くしたくてうずうずしてます…