複雑・ファジー小説
- 『“私”を見つけて』15 ( No.27 )
- 日時: 2014/06/14 20:28
- 名前: マヒロ ◆eRcsbwzWZk (ID: g2Ez2oFh)
- 参照: ※流血表現あり
『はっぴーばーすでいとぅーゆー、はっぴーばーすでいとぅーゆー、はっぴーばーすでいでぃあ菫と××! はっぴーばーすでいとぅーゆー!』
『誕生日おめでとう! 菫、××』
大きなホールケーキに立つ六本のろうそくの火を消し、私たちは微笑みあった。——私たち? そうだ、この隣にいる女の子は誰だろう? 両親が私の名前と共にその子の名前も言っているのに、曖昧で何て言っているのかわからない。
私と誕生日が一緒で、両親と私とその子で祝っているということは——そう、双子じゃないか。何で今まで忘れていたんだろう。この子は私の双子の妹だ。同い年だというのに私を“お姉ちゃん”と呼んで姉のように慕う、愛しい私の片割れ。
だがそれを思い出しても、彼女の名前までは思い出せなかった。
『ほら、誕生日プレゼントよ』
『菫にはウサギのぬいぐるみ、××にはクマのぬいぐるみだ』
父と母からぬいぐるみを受け取る。ふわふわの毛並みは、私にひどく安心感を与えた。真新しいぬいぐるみに私は興奮し、撫でまわしたり耳を引っ張ってみたりと、とにかく嬉しかった。それは片割れも同じだったようで、私のようにぬいぐるみに夢中だ。
そういえば、去年の誕生日には何をもらったんだろう。……上手く思い出せない。プレゼントどころか、誕生日を祝ってもらったのかさえ覚えていない始末だ。その他の思い出も、あると思っていたのに何一つ思い浮かんでこない。
だったら私は何故この人たちが自分の家族だとわかったんだろう。なんとなく? そう言ってしまえばこの思考を停止することが可能なのだが、私はそんな気にはなれなかった。
『おねーちゃん! 早くーっ』
時は変わって誕生日の翌日、私たちは四人揃って買い物に出かけていた。夕飯は冬だし鍋にでもしようかなんて話しながら、穏やかに過ごしていた。
私は片割れに呼ばれて、何メートルか先にいる三人の元へ向かう。歩幅が小さいながらも六歳の私は安定した歩きをしていた筈だったのだが、向かいから歩いてくる大人に身体が当たり、バランスが崩れてしまった。
私の所持品は昨日貰ったウサギのぬいぐるみだけ。しかしそれが問題だ。ウサギは私が手離してしまったために、道路に放り出されてしまった。私は取り戻そうとすぐにウサギのもとへ駆けつけた。
『っ菫!?』
母親の声を聞いてウサギから目を離すと、真横には大型車が迫っていた。ドンっと鈍い音がして、身体が浮遊する。ウサギもせっかく取ったのに、また私と距離を置いて転がってしまっていた。
私は硬くて寝心地の悪いところに寝ていて、片目だけ視界が赤かった。それに額とか、背中とか、さっきまで寒かったのが嘘みたいに暖かい。
『おねえちゃん! 起きてよおねえちゃんッ!!』
『菫ッ!!』
『っ救急車を呼べ!』
次第に人だかりができて、家族三人が私の顔を覗き込んでいた。みんな泣いてる。私は大丈夫だよと言おうとして、自分が大丈夫だと言えない身体であることに気がついた。
自分が相当の怪我を負っていること、それによって口すら利けないことも理解した。息が苦しいと思った。過呼吸なんじゃないかってくらいに苦しい。実際になったことはないけれど、これが授業で学んだ死戦期呼吸かと頭の隅で思った。死に近づいているというのに、私は呑気なことを考えながら、瞼を閉じた。