複雑・ファジー小説

『“私”を見つけて』17 ( No.29 )
日時: 2014/07/03 20:16
名前: マヒロ ◆eRcsbwzWZk (ID: g2Ez2oFh)

「蓮さんは、どうなの…? 父様と母様は、私を心配だと言っていた、らしいけど、あなたは……? 迷惑じゃないの? それとも、私の知らない目的のために仕方ないと、思ってる? やっぱり邪魔? 重荷? だったら、何で私の記憶探しを手伝ったの? どうせ突き放すなら、最初から——」
「菫さん、それは違う」

 私がうわ言のように言っていた言葉を、唖然と聞いていた蓮さんは否定した。怒鳴るとか、声を荒げたりはしなかったが、威圧感のある声だった。
 でも頭痛で意識が朦朧としているせいか、それはあまり通用しなかった。

「何が違うの? 私があなたに迷惑をかけているのは紛れもない事実。私自身が面倒臭いと感じているもの、あなたはこれ以上に面倒に感じて——」
「落ち着け、菫さん。俺は君を見捨てたりしない。面倒だとも、邪魔だとも、重荷だとも、迷惑だとも感じていない。俺の本心だ、君が記憶を取り戻して自立できるまで協力する」
「っ……なんで、そんなこと言うの? 私が自立できるまでとか、そんなの約束してないし、ただでさえいつ記憶が全部戻るかなんてわからない! そんな不安定な未来のことなんて軽々しく約束しないでよっ」

 不安で不安で仕方なくて、こうして八つ当たりしかできない私を彼は嫌いになるだろう。それでも感情の暴走はおさまらない。こんなこと初めてだ。
 勢い余って起き上った私は、彼の肩を力強く掴んでいた。しかし、彼は表情を変えない。肩を掴んでいた腕を回収すると、私の頭を掴んで引き寄せた。

「確かに俺の言っている未来は不安定かもしれない。そのせいで君が不安になっているのもわかる。それは信じてくれとしか言いようがない。君の言っているように、俺には菫さんの記憶探しという過程を経ての目的がある。だが、目的を抜きにしても俺は個人的に君の記憶を取り戻し、幸せになって欲しいと思っているんだ」
「っありがとう…!」

 私は蓮さんに抱きしめられながら、久しぶりに嗚咽をして泣いた。人の温もりを感じて、私はとても安心した。


 ◇


「事故の一部始終か……。確かに最重要な記憶だな」
「今年で二度も交通事故の未遂現場に居合わせたから、さすがに刺激を受けたんじゃないかって思う」

 私は気の済むまで涙を流して、思い出した記憶を詳しく話した。そして幼いころ両親に聞いた説明とは辻褄が合わないこと(双子の妹の存在など)、私の覚えている両親と今の両親の顔が全くの別人だということなど、困惑していることを包み隠さず話した。
 今更隠すことなどない。あんな自分の心情を丸裸に告白しておいて、隠し事なんて無駄だ。蓮さんについて知らないことは多いが、ちゃんと信用してみようと思った。

「この記憶を信じればいいのか、両親を信じればいいのか……」
「君にはまだ選択の余地がある。このまま心の内に秘めておくのも良い。……覚悟ができたら俺に言え」

 私は身体に異常はないとのことでその翌日に退院し、もう安心できはしない家へ戻るのだった。

***
情緒不安定な主人公…