複雑・ファジー小説

『“私”を見つけて』02 ( No.3 )
日時: 2014/04/22 17:49
名前: マヒロ ◆eRcsbwzWZk (ID: g2Ez2oFh)

 翌日にはイケメン教師が来たという浮ついた話は校内中に広まっていて、三宅先生は皆の注目の的だった。彼が廊下を通る度に女子の騒がしい声が響き、やはり親友が言ったようにイケメン教師の威力は絶大だと思い直した。
 そんな大人気先生様に、私は日誌を渡さなければならない。なんで私が日直の日に限って担任が出張なんだろう。それを知った友人たちが私の日誌を横取りしようとしたのはつい十分ほど前の話だ。
 目的地である職員室に着く。私が扉を開くと同時に、内側からも扉が開かれた。

「わっ」
「あ、大丈夫ですか? ——って、一之宮さんじゃないですか」
「どうも。あの、これを届けにきました」

 なんと職員室から出てきたのは三宅先生だった。手に持っていた日誌を早々と渡すと、今思い出したとばかりに目を丸くし、それを受け取った。

「日誌を持ってきてくれたんですね。日直お疲れ様です」
「いえ。じゃあ、私はこれで」
「あ、ちょっと待ってください」

 そう引き留められて、私は上手く丸められて屋上に行った。
 職員室から屋上までの数分、互いに黙って歩いていた。三宅先生は相変わらず笑み浮かべていて全く何を考えているのか読めない。なんでわざわざ屋上に移動するのかとか、今まであまり関わりのなかった私に何の用だとか、いろいろ考えても答えは出なかった。
 そうしている内に、屋上に着いてしまった。三宅先生はフェンスに背を預けて、私の目を見た。

「君、六歳までの記憶が無いんだってな」

 突然放たれた言葉に、心臓がドクンと大きく脈打った。三宅先生の喋り方や雰囲気が変わっていることなんて全く気にならないほど、何故か心の余裕がなくなっていた。

「なんで、そんなこと」
「俺は副業で探偵をしている。——君の記憶を探してみないか?」
「えっ……」
「気にならないのか? もしかしたらその記憶の中にとても大切な思い出があるかもしれないのに」

 心地好い声で私を誘惑する三宅先生。彼の差し伸べた手に、私は恐る恐る自分の手を重ねた。
 ——私は両親の話でしか昔を知らない。今まであまり気にしていなかったけど、やはり自分の記憶として思い出を焼き付けたいという思いもあったのだ。もし、本当に記憶が戻るなら……この探偵さんと一緒に頑張ってみるのも、悪くないと思った。

***
最初は長めに01+02で掲載しようと思ったのですが、やっぱり短めに区切りました;