複雑・ファジー小説

『“私”を見つけて』21 ( No.33 )
日時: 2014/07/26 21:56
名前: マヒロ ◆eRcsbwzWZk (ID: g2Ez2oFh)

 私が着いたのは、蓮さんの探偵事務所だった。五十嵐家の地図の裏にここまでの地図も書いてあったのだ。
 恐らく彼は、こうして私が逃げてくることを予想していた。ということは絶対に中にいるはずだ。私は一切躊躇わず、探偵事務所に足を踏み込んだ。

「蓮さん……」

 彼は大きなイスに座っていた。部屋の中は電気がついておらず、月明かりが照明の役割をしていた。
 私は混乱しているはずなのに何だか落ち着いて、口を開いた。

「私の本当の両親は——鈴菜の両親なのね。以前から薄々気づいていたもの。私と一之宮夫妻は似てない。何度この人たちの子供じゃないかもって疑ったことか……」

 蓮さんは黙って頷くだけ。自分を嘲笑って、皮肉を込めて言う。今まで能天気に生きていた私に伝えるように。
 彼は何だか言いたそうにしていたが、それでも口を開くことはなかった。いつもどこかに余裕のある彼のことだ、私が言おうとしている覚悟なんてもうお見通しなのかもしれない。

「蓮さん、私の記憶を探すって言ってから半年くらい経ったね。あなたの副業は探偵。これだけ時間があれば……私がまだ知らない情報を、持っているんじゃないの?」

 それはずっと前から気付いていたこと。最初の頃こそ用心深く疑っていたが、やがて彼には何か考えがあるのだろうと思った。
 すると蓮さんはこの台詞を待っていたかのように含みのある笑みを浮かべ、綺麗にまとまった書類を出してきた。

「ご明答。一応君に会うときは常に持ち歩いていたんだが……もう渡そう。これを使うかは君次第だ」

 私は震える手で書類を受け取った。一枚目から丁寧にめくると、資料をコピーしたようなものが入っていた。よく見れば、そこには“現在戸籍”と記されており、私と一之宮夫妻の名前が載っている。
 次のページへと捲れば“改製原戸籍”と記されている。それは私と五十嵐夫妻、鈴菜の名前もあった。

「君の戸籍は十年前に改製されている。聞いたことはあるか? “特別養子縁組”というんだが、ただの養子縁組ではない。君は養子だが一之宮家に実子と同じように縁組し、五十嵐家とは戸籍上の関係を断ち切った」
「じゃあ、この“改製原戸籍”っていうのは……」
「除籍されていたはずなんだがな。コピーを取るのは苦労したよ」

 私はそれを脳裏に焼き付けて、顔を上げた。
 これを彼等に突き付ければ、全ての真実が聞くことができるんだろう。でも、私がこの話題を出したら、もう後戻りはできない。今の両親とも、鈴菜とも今の関係ではいられない。

「もし躊躇っているのであれば、捨ててしまっても構わない。一応バックアップをとってあるからな。……ただし、俺がこれを渡すのはこの一度きりだ」
「……はい。じっくり、考えます」

 こんな無力な私にチャンスを与えてくれる蓮さんに感謝をして、探偵事務所を後にした。

***
あと一歩!