複雑・ファジー小説

『“私”を見つけて』23 ( No.37 )
日時: 2014/08/06 09:05
名前: マヒロ ◆eRcsbwzWZk (ID: g2Ez2oFh)

 忙しない行事も済み、学校全体が落ち着いてきた十一月。
 私は思い切って蓮さんに連絡を取っていた。内容は“明日、一ノ宮夫妻と五十嵐夫妻を学校に呼び出してほしい。そこで話をつける”という、私の決意表明をしたものだ。
 私は一人で複数の机を集めてできた少し大きめの机の一角で、椅子に座って待っていた。静かにドアの開く音がして、蓮さんと一之宮夫妻、五十嵐夫妻、それと——鈴菜が入ってきた。

「鈴菜…!?」
「菫ちゃん? なんで……」
「積もる話もありますが、まずは皆さん腰を下ろしてください」

 私は鈴菜を呼ぶつもりはなかったのに、なんで…! 彼女には何にも罪はなくて、ただの被害者なのに……。そんな私の文句を無視するように、蓮さんは口を挟んだ。
 一之宮夫妻も五十嵐夫妻も困惑したような表情をしているが、恐らく一番状況がわかっていないのは鈴菜だ。顔を見ると、不安に思っているのがよくわかる。私の唯一の光ともいえる彼女を傷つけない方法を考えるが、彼女には真実を知るという選択肢以外なかった。

「皆さんに菫さんから話があるようなので、僕がお呼びしました。各々思うことはあるとは思いますが、まずは彼女の話を聞いてあげて下さい」

 途端に彼等の表情は緊張を帯びて硬くなる。鈴菜もただならぬ空気を感じたのか、例外ではなかった。
 ——ここで私は、強い意志を持って自分の考えを……真実の一部を伝えなければならない。もう決めたんだ、誰に何と言われようと私は真実を暴くと。大きめの深呼吸をして、私は口を開いた。

「私は、交通事故で小学校に入るまでの記憶がありません。無くした記憶は……一之宮夫妻に教えてもらいました」
「しかし今年の九月、鈴菜さんがトラックにひかれそうになった時に全てを思い出したんです。私は六歳までどのように生活し、いつどんな状況で事故に遭ったのか」

 そこまで話して彼等の顔を見渡すと、蓮さん以外は顔を青くさせていた。鈴菜は素直に私が事故の被害者だってことに驚いているらしいけど、他の四人は違う理由だろう。
 あまりにも予想通りのリアクションに内心嘲笑いながら、私は核心をつく言葉を口に出した。

「事故現場には……五十嵐夫妻がいました。当時の私と同い年くらいの女の子も。そしてこの記憶が正しいものだとすれば、私が一之宮夫妻を見たのは事故後が初めてです」

 それが何を意味しているのか、わからない人たちじゃない。ただし鈴菜は困惑した表情をし、蓮さんは依然何を考えているのかわからない無表情だ。
 その苦しそうな表情が更に歪むことを予想して、私は止めの書類を差し出した。

「私の戸籍のコピーです。私の戸籍は一度、改製されていました。こちらが以前の戸籍、そしてこちらが今現在の戸籍です。
違いは、わかりますよね? 両親の名前が全く違うのですから。しかし、なぜ私は戸籍を一度改製なんてしているのでしょう?」

 私だけじゃここまで出来なかった。戸籍なんてもの学生の私が手を出せるものではないし、難しくて理解できなかったと思う。
 でも、蓮さんが手を貸してくれたから——今の一見幸せな家庭を壊してでも、私は勇気を出したいと思った。

「このように調べてみれば生みの親は生きていますし、離婚もしていません。だからといって私は虐待を受けてもいないのに、なぜ特別養子縁組なんてされているんですか?」

 五十嵐夫妻——私の生みの親は唇を震わせている。顔も真っ青で、まるで絶望したみたいに振舞っていた。
 対して一之宮夫妻——私の養親はまるでこのことがわかっていたかのように冷静だった。だが顔が青ざめているのは変わらない。
 そして鈴菜——私の双子の妹は、この理解し難い内容を大方理解したようで泣きそうだった。可哀想な子。一番の被害者は一体誰なんだろうか。

「答えてください。……ここまでのことをしておいて黙秘を貫くなんてこと、ありませんよね」

***
ここ書いているのが一番楽しいですw