複雑・ファジー小説
- 『“私”を見つけて』03 ( No.4 )
- 日時: 2014/05/24 20:20
- 名前: マヒロ ◆eRcsbwzWZk (ID: g2Ez2oFh)
記憶探しをすると決めてから、一週間が経った。とりあえず一番最後の記憶を三宅先生に教え、今のところ特に進展はないといった感じだ。というより、今の時期はそれどころじゃない。
何故ならもう二週間もしないうちに私たち一年生は初めての中間テストがある。生徒である私も、教師である彼も忙しかった。
「テストなんて嫌ー! なんで数学がⅠとAの二つもあるの?」
「なんでだろうね。まあ、一週間前になってから勉強すれば大丈夫だよ」
「そうかなあ?」
「ふふ、さあね」
私が曖昧な返事を返せば、鈴菜は不安な表情を見せた。コロコロ変わる表情が可愛いからついからかってしまう。今日の持ち物を確認すれば、今回のテストに出る教科の教科書やノートもルーズリーフも入っている。
じゃあ、一緒に勉強する? と聞くと、鈴菜は二つ返事で了承した。
◇
「——だから、ここはpじゃなくてqだよ。それにここの符号逆」
「ええ? なんで?」
「公式をよく見ればわかるよ」
善は急げ。ということで、約束を交わしたその日の放課後に私たちは二人きりの教室に残っていた。
まずは鈴菜の苦手科目の数学から取り掛かったのだが、もうかれこれ一時間半は経っている。理解は早いと思うのが、なんせケアレスミスが多い。本当にちょっとしたことなのに勿体ない。そう思いながら懸命に教えていたことにより、なんとか試験範囲の半分以上の課題が終わった。
「あー、菫ちゃんがいて良かったー」
「大袈裟だよ。そろそろ帰ろうか」
「うん」
そうやって帰る準備をし始めた時、教室の扉が開いた。担任の教師からは戸締りを任されたので、わざわざ教室に来る人なんていないはず——
「あ、レンレン!」
「五十嵐さん、一之宮さん、残って勉強していたそうですね。もう帰るんですか?」
「うん。聞いてよ先生、あたし二次方程式わかるようになったんだよ!」
鈴菜は三宅先生に懐いているらしく、今日の成果を嬉しそうに報告した(ちなみにレンレンというのは三宅先生のあだ名だ)。そんな彼女を見ていれば、教えた甲斐があったというものだ。私はその間にいそいそと身支度を整えた。
「菫ちゃんの教え方上手なんだ!」
「一之宮さんが? それは、今回のテストの結果が楽しみですね」
「あはは、一応数学が得意なので」
そうやって少しだけ三人で世間話をしてから、私たちは帰ろうかと声をあげた。三宅先生は生徒の前と探偵の仕事をしている時では雰囲気が違う。私はそのギャップにまだ慣れていなくて、出来れば校内での会話は避けたかった。何よりこの記憶探しの件が他者に漏れるのは嫌なのだ。鈴菜もこれに例外ではない。
しかし、私のそんな思いを三宅先生が知る由もなく、堂々と私を呼びとめた。
「一之宮さん、そういえば七尾先生が呼んでいましたよ」
「ええ? 菫ちゃん何か悪いことしたのー?」
「……身に覚えはないよ。でもごめんね、先帰ってて」
「うん、また明日ね!」
七尾先生とは私たちのクラスの担任教師だ。恐らく七尾先生が呼んでいたというのは嘘だろう。何か情報でも掴んだのだろうか。
鈴菜はあっさりとこの嘘を信じて帰った。