複雑・ファジー小説

『“私”を見つけて』05 ( No.7 )
日時: 2014/06/07 14:22
名前: マヒロ ◆eRcsbwzWZk (ID: g2Ez2oFh)

>>6 未来さん
コメントありがとうございます!
他の小説と比べると地味な感じなので嬉しいです(^^*)
これからも頑張ります!
***

 テスト明け、私は蓮さんに呼び出されてとある児童養護施設に向かっていた。通行手段は彼の車なのだが、普通の教師をしているにしては良い車だった。探偵をしているとしてもそんなに儲からないだろうに……彼の正体までもが謎になってきた。
 だが、何で児童養護施設なんだろうか。私の記憶に関係のあるものがあると言っていたけど、少なくとも私の今ある記憶ではそういう施設に行ったことはない。

「着いたな。ここだ」

 車のブレーキのかかる音で、私は一時思考を止めた。施設は保育園みたいなところだった。外では子供たちが遊んでいて、とても楽しそうだ。私たちはその中の一人に職員を呼んできてほしいと頼んだ。

「三宅様でいらっしゃいますね。ご案内します」

 優しそうな中年女性が丁重な言葉を使って、私たちを部屋の奥へ案内した。ある部屋に着けば、帰るときには声をかけるようにと添えて、彼女は部屋を出て行った。
 綺麗に掃除されているその部屋は、二段ベッドが一組と勉強机が二組あった。いかにも二人の子供が生活していそうなこの空間に残され、私は訳がわからなかった。

「一応確認するが、君の両親の名前は一之宮浩樹さんと一之宮小梅さんだな?」
「そうだけど、一体この施設と私の記憶になんの関係があるの?」
「一之宮夫婦は十年前の冬に、ここの施設に物を寄付したんだ。女の子一人分の洋服やアクセサリー・玩具をな。——ちょうど、君が記憶喪失になったのも十年前の冬だ」
「あ……」
「偶然とは、思えないよな?」

 蓮さんの口元がぐにゃりと歪む。彼はどこか愉しんでいるようで、その顔が気に喰わなかった。
 でもなんでそんなタイミングで私の私物を施設に寄付したんだろう。どうせなら、私物はそのままにしておいたほうが何かを思い出すかもしれないのに。もしかして……

「まあまあ、そんなに暗い顔しないでくれよ。君の考えていることは大体わかる、後ろ向きな考え方だと思うがな」
「他にも情報を持っているの?」
「いいや。今のところはない。……ただ俺の推察では、一之宮夫婦は君に記憶を思い出させないようにしている」
「理由は?」

 彼はわざとらしく肩をすくめて、そこまではわからないと言い切った。それすらも胡散臭く見えるのは、やはり彼がまだ私に核心的な情報を隠しているからかもしれない。
 だがそれを追求しようが彼は断固として私に情報を与えないだろう。よく考えての行動だというのはわかっている。

「とりあえず、記憶の手がかりになりそうな物を探そうか」
「子供の部屋を勝手に物色していいの? いくら私の私物を寄付したとはいえ、今はこの部屋の子たちの物だよ」
「ここの責任者に許可はもらった。問題はないだろう?」

 そう言って蓮さんは部屋を物色し始めた。私も心の中で謝罪を繰り返しながら、仕方なしにおもちゃ箱らしきものの中を漁った。
 だが出てくるのは見覚えのないものばかり。記憶ないんだから当たり前なんだけどね。余程大切なものじゃない限りわからないだろう。

「なあ、これなんかどうだ?」
「ぬいぐるみ? 結構あるね」
「なんか菫さんぬいぐるみ好きそうだし、これだけピックアップして集めてみた」
「え? 初めて言われたよ、そんなこと」

 蓮さんに渡された人形たちを漁ると、元は白かったのだろうが少し汚れたウサギのぬいぐるみが出てきた。私はその人形に目が釘付けになる。見覚えがある、気がしないでもない。
 途端に頭が鈍器で打たれたように痛くなり、頭を抱えた。蓮さんの少し焦った声が聞こえる。ああ、あの人でも人の心配をすることがあるのかと、私は意識を失う中で思った。

***
やっとメインの記憶探しが始まりました
0607 少しだけ修正