複雑・ファジー小説

Re: クリスティアン ( No.1 )
日時: 2014/04/25 12:59
名前: 根緒 (ID: LuHX0g2z)
参照: プロローグ -ただの余興だ。此処は彼女にでも語ってもらうことにしようか-



クリスティアンという狂人のことは、今でもよく覚えている。
私の知っている男ではない別人の名前だったとしても、その名前というだけで私の脳裏には、あの虫唾が走るほど輝かしい笑顔が浮かんでくるのだ。
誰かと全く関係のない会話をしていたとしても、全く関係のない考え事をしてきたとしても、忘れた頃に必ずあいつは私の脳内に現れるのだ。そう、忘れた頃に。まるで自分の存在を私に忘れさせないためかのように、しぶとく何度も現れるのだ。あいつのことを思い出さなくて済むのは、仕事に没頭している時ぐらいだ。

あの目に悪いほど派手な金髪を思い出す度、あの澄み渡った青い双眸を思い出す度、私は頭が狂いそうになるのに、どうしてこうなってしまうのか。
どうして私があいつのことなんて、覚えていなければいけないのかわからない。
嫌悪の対象であり、憎悪の対象であるあの男を、どうして私だけが記憶の中に生かしているのかわからない。どうして私があいつのことだけを忘れずに、本当に大切な人のことを思い出せなくなるのかわからない。

嗚呼、クリスティアン。お前は私を地獄を与えに来た悪魔なのか。それとも私を制裁しにきた神なのか。

年老いた今では、確かめようもない。