複雑・ファジー小説
- Re: CLOXS-VALLIAR-DIMO【オリキャラ募集】 ( No.10 )
- 日時: 2014/04/27 19:14
- 名前: 氷戯薙森 (ID: gOBbXtG8)
空中に浮かぶ神殿が一つ、在る。
嘗ては白く美しかった柱や壁には、草木の蔓や根が張り巡らされて罅割れている。
どれほど手入れが行き届いていないか、一目瞭然だ。
そんな空中神殿を、快い爽やかな風が、雲を運びながら神殿を吹き抜けてゆく。
巫女〈エレイシア〉の白いワンピースと、長い翡翠の髪が揺れた。彼女より甘い香りが漂い、少女〈リリー〉の鼻を擽る。
軽装鎧の音を響かせ、彼女はエレイシアに近付いた。
「今日もいい天気ですね」
「うん」
エレイシアは隣に立つリリーを見ず、空を仰いでいる。
丁度その時、神殿の出入り口でもある魔方陣の光が強くなった。
来客の報せだ。
やってきたのは、とても小さな身体を持つ少女〈リオ〉だった。
「レイ、おはよ」
「おはよ、リオ。いつものところ、空いてるからね」
「ん、ありがと」
リオは一つ頷くと、神殿の奥へと消えていった。
それを見ていたリリーがくすくすと小さく笑い、つられてエレイシアも同じように笑った。
「あの子、いつもあんな調子なんですね」
「うん。猫みたいで可愛いんだよね」
リオの言う「いつものところ」とは、神殿の中に日の光がさす場所のこと。
彼女は天井に開いた穴を有効活用し、入り込む日の光で転寝をするのが好きだった。
暇なときは、一日中そこで寝ていることさえある。しかも寝つきがよく、一度夢の世界の住人となると中々目覚めない。
そんなリオの態度は、リリーやエレイシアの笑みを誘うには十分だった。
◇ ◇ ◇
数分もしないうちに寝てしまった様子のリオを視察したエレイシアは、リリーと別れて神殿の奥へと入っていった。
この場だけは神聖な何かしらの力が働いており、天井や壁が崩落したり植物が生えていたりすることはない。否、ありえない。
スクリーンのような形で彫られた壁に、エレイシアは持っていた杖をひとつ振りかざす。
すると、ひとつの映像がその壁に浮かび上がった。
魔法による力と言ってしまえばそれまでだが、これは巫女だけが扱える特別な技術である。
彼女が知る場所であれば、こうしてその壁に映したい場所の映像を映すことができる。
浮かび上がったのは、世界樹と螺旋階段がある神聖な領域の映像だった。
沙羅双樹のような一対の世界樹は醜い姿で枯れており、その間にあったはずの螺旋階段は光を失って崩れている。
「考え事ですか、お嬢様」
突然背後から、エレイシアを呼ぶ青年の声が響いた。
エレイシアが振り返ると、長い髪を後ろでひとつに纏めた青年〈ナイト〉が立っていた。
見た目は若手の執事のようだが、実際の年齢は〈影人〉独特の寿命の所為ではっきりしていないほど長生きしている。
「あ、ナイト……うん、ちょっと考え事」
ナイトはエレイシアに、ゆっくりとした動作で近付く。
「世界樹について何か?」
「うん。どうしちゃったのかなって思って……」
エレイシアはこの頃、枯れた世界樹と崩壊した螺旋階段について気を揉んでいる。
彼女はこの神殿の巫女を務めていると同時に、世界樹に携わっている人間でもある。
世界樹が枯れ、螺旋階段が崩壊したという報せ。そんな立場にいる彼女が、それを聞いて心配しないわけが無い。
「確かに、ロスト現象については私も気になっております」
「やっぱり?」
「えぇ。それに私だけでなく、恐らくは世界中の人々がこれについて気になっているでしょう」
世界樹が枯れて螺旋階段が崩壊した事件を、世間はロスト現象と呼んでいる。
「紅茶を淹れてきます。よろしければ、救いの間でお待ちを」
「あ、ありがとう」
暗にエレイシアを慰めたナイトは、そう言い残して去ってゆく。
残されたエレイシアは、この神殿にある〈救いの間〉へと足を運ぶこととした。