複雑・ファジー小説
- Re: CLOXS-VALLIAR-DIMO【オリキャラ募集】 ( No.16 )
- 日時: 2014/04/29 12:38
- 名前: 氷戯薙森 (ID: gOBbXtG8)
それから二日後。
エレイシアは久し振りに、神殿の外に出ることを許された。
誰に許されたのかと言えば、この名も無き空中神殿を含む、あらゆる神殿を統括する総帥より許された。
総帥の名は世間に知られておらず、内通者でもその名と容姿は知らないものが多い。
というよりも、ほぼ零に等しいといえよう。
召使が百人ほどいて、彼らが総帥の身の回りを世話しているとの噂が巷で騒がれているが、その召使達でさえも誰一人として総帥の名を知らない。
容姿も、召使達の前でも黒いフードに身を包んでいるので知られていない。
そんな謎だらけの総帥より書簡が送られ、エレイシアは神殿の外に出ることを許されたのだった。
エレイシアがいない間はナイトやリリー、リオ、他にも神殿の常連である<クウゴ・デッドマン>や、エレイシアのお目付け役となっている<マーリン>が神殿の運営を受け持つこととなっている。
これは、総帥よりの書簡に書かれていた命令事項だった。
世界中の神殿を統括する総帥は、言うまでもなく、手に余るような膨大な力を有している。
そんな総帥なので、いつしか世界は、総帥に服従するような仕来りが暗黙のうちに決定されていた。
迂闊に要求を断れば、何があるか分かったものではない。
加えて神殿という存在は、既に世界中において威圧を発している。
(いつの間に、こんな風になっちゃったんだろう……)
危険な事だとは分かっているが、エレイシアは密かに総帥の正体を探ろうとしている。
いつか在りし、あるべき姿の神殿という存在を取り戻すために。世界中の人々が怯えないで済むように。
そんな切実な願いを叶えようと、エレイシアはある<モノ>の手がかりを探っている。
(CLOXS-VALLIAR-DIMO"クロクス・ヴァリアー・ディーモ"……)
エレイシアの脳裏をふと過ぎったその言葉。それこそが、今彼女が追い求めているものだ。
世界で唯一意味が判明していない言葉であり、なのに現世では古より、その言葉には強い言霊が宿っている。
摩訶不思議という言葉が正に似合うそれと、正体不明の総帥とが無関係なわけが無い。
少なくとも、エレイシアはそう思っている。周囲の人間は皆、茶化したり貶したりするだけであるが。
当然だろう。どこかにいそうな気違いが考えるようなことを、誰が信じるというのだろうか。
結果的にエレイシアは、周囲の人間に頼ることを諦めるしかなかった。
これは一人で探さねばならない。そして、無関係ではなかったことを証明せねばならない。
無関係でないと言い切れる理由は、巫女としての勘、だそうだ。
所詮は勘か。と言われてしまえばそれまでだが、それでもエレイシアは、クロクス・ヴァリアー・ディーモという言葉の意味を探し出すと決意した。
昔から勘だけは鋭かったエレイシアの勘が、これまでに無いほどの確信性を醸し出している。
巫女としての血が落ち着かず、騒いでいる。意味を探さねば危険だ。探すことも危険だ。探さずとも危険だ。と。
魔方陣で空中神殿により近い崖へとワープしたエレイシア。
その崖から緑と岩肌、流れる水、澄んだ空などが一望できる風景を見渡す。
(————忘れられない、旅になる。きっと……)
始まってさえいない旅を想い、エレイシアは美しい自然に勇気をもらい、彼女は美しい自然を目に焼きつけて背を向けた。
何が起こるか分からない。それでも、彼女の瞳は真っ直ぐに先を見つめている。
まるで、この先に答えがあるかのように。宛ら、この道が正解かのように、翡翠の瞳が輝く。
「私も行く」
その場を後にしかけたとき、不意に背後から声が響く。
振り返れば、総帥の命令なんぞ知ったことか。と言わんばかりの表情をしたリオがいた。
「——ありがとう」
短くとも長く感じる沈黙の後、エレイシアは自然な笑顔でそう言った。