複雑・ファジー小説
- Re: 絶 ゆ る 言 の 葉 。 ( No.4 )
- 日時: 2014/08/25 09:16
- 名前: 歩く潔癖症 ◆4J0JiL0nYk (ID: rtyxk5/5)
-title【無音】-
眼を瞑って「アリガトウ」
口を閉じて「アイシテル」
耳を塞いで「アナタダケ」
*
人は生まれた瞬間から、いろんな人に「言葉」というものを投げかけられているものです。称賛、恨み、妬み、呪い、他愛ない雑談。そこにどれだけの嘘が含まれているか想像はできませんが、確実に「気持ち」も一緒に押し付けられているのです。それを人は、疎んだり、悲しんだり、嬉しがったり——とても休む暇がありません。自分の感情の起伏が、そんな他人の「言葉」と「気持ち」で左右されるのが、私はとても嫌でした。
「ニンゲンは、要らないモノを覚えすぎたのよ」
そんな風に憂いてみます。天井を仰ぎみて、大げさな出演もしてみるのです。拍手は聴こえません。まだ、物語は終わっていないのです。始まってすら、いないのです。
「ねぇ、あなたもそう思うでしょう?」
そうやって語りかけた私の眼には、上着を脱がされた状態で両手を拘束され、泣きじゃくる愛おしいあなたの姿が映っていました。綺麗な髪を乱れさせて、いやだと、泣きじゃくっていて。涙と鼻水と涎でぐじゅぐじゅになった顔は、それでも綺麗です。
そっと触れると、あなたは可愛そうなくらいに怯えてしまう。キスをすれど、応えてはくれません。それでもいい、あなたはもう私からは逃げられない。だから私は、これ以上ない幸福感に満ちているのです。
でも、少し、うるさいかなぁ。
「泣かないで、騒がないで、ね?」
優しい私は、そんな風にあなたに語りかけました。安心させるように微笑んで、頬を撫でてあげました。なのにあなたは、声のボリュウムをさっきよりもあげて、叫んび続けるのです。
「痛い」
「帰して」
「嫌だ」
「悪魔」
そんな言葉で私を責めるのです。
とても傷つきます。あなたに危害など加えていないのに、あなたは私を責める。心に突き刺さる言葉を、あなたはやめようとはしません。
————静かな人形が、いいのです。
私は裁縫道具を引っ張り出して、中針を取り出し白い糸を通します。慣れた手つきで、通します。その針を、用意しておいたアルコールに浸します。てらてらと、針は光沢を帯びます。
未だ、頭が取れんばかりに首を振るあなたの顎を掴み、私は固定しました。動かれては他の綺麗なところに傷をつけかねない。
そして私はゆっくりと、安心させるようにキスを落とし、針をあなたの唇の端から通していきます。口周りの皮膚と肉は柔らかい。そしてなにより唇は肉厚で皮が薄く、糸で縫うにはとてもやりやすい部位でした。針を通した穴から、赤く綺麗な液体が、だらだらと流れる涎に混じって顎を伝う。そのさまが、とても芸術的でした。恍惚とした、なんとも言えない興奮が私を満たしていくのを感じます。
しかし、涙を流すあなたの眼が、私を未だに責めていました。
とても悲しい気持ちになったので、あなたの眼を塞ぐことにしました。
————優しく微笑んで、ほしいのです。
一針一針、丁寧に。眼球を貫いて、瞼が開こうとして裂けてしまわぬように。
愛おしげにゆっくりと、私はあなたの両目を縫っていきます。時々何かの汁が零れてきますが、きっと嬉しくて泣いているのでしょう。涙さえも愛おしいのです。マリアのようにあなたは微笑んでください。私に、微笑んでください。
こうしてやっと。
少し、静かになりました。
fin.