複雑・ファジー小説
- Re: 「奇譚、やります。」 ——千刻堂百物語譚 ( No.16 )
- 日時: 2014/09/06 03:24
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: ykAwvZHP)
- 参照: 玖 (語り部:藤堂 薫)
『訳あり物件のエクソシスト?』
すずがらす。
鈴みたいに鳴くカラスなのやら、鈴みたいな音を出すガラスなのやら。きっとどっちもね……
あら、会ったことはないわよ。そもそも住んでる場所が全然違うじゃない。
えぇそう、引っ越したわ。千刻堂に近いほうがいいと思ったのと、前の家はいわく付きだったっていうのとでね。今からする話は、そんな前居で起こった小話。あんまり長いと閊えるし、短めに話しましょ。
平たく言うと、アタシが前に住んでたアパートの部屋は『訳あり物件』だったのよ。
ポルターガイスト、ラップ現象、謎の隙間女に意味不明な蟲が一杯。金縛りは毎日、リビングの真ん中で首吊りなんて日常茶飯事。時にはカビ一つ浮いていない水周りから腐肉臭がしたり、ほとんど空の冷蔵庫一杯に蛆が湧いたり。なるほど家賃が一万円だって、このアタシが納得できるくらい酷い家だった。さすがに冷凍庫にまで蛆ゴキブリの類が湧いたときには、どーしよーこれーって頭抱えたけど。
でも、アタシはそんなものもう慣れっこだったからね。普通に生活してたわ。
……ゴメンね皆、晩御飯食べてきたばっかりなのにこんな話で。もうこんなこと言わないから許して。
——でも、そんないわく付き生活も随分早く終わったわよ。すごく変な方法で。
その日は今からきっかり二年前。まさに二年前の今日の、深夜二時を回りかけた頃ね。
そう、心霊現象は起こった。
ファミレスのランチみたいに日替わりで出てきたけど、その日は人に見えない蟲が家中に一杯。
いくら見えないって言っても、あんなにいたら移動しにくいったらありゃしないわ。仕事に行ってる間はよかったけど、それから帰ってきて晩御飯食べてお風呂入って寝るまでが、もうね。
まとわりつかれて泥みたいに重たい足を引きずって、何とかベッドの傍まで行ったんだけど。
その時ね、物凄い音がしたの。壁から。
あんまり詳しく内容は言えないんだけど、その……ドストレートに言うと……喘ぎ声が。
ええ、そう、もう、幽霊に出会うよりビックリ。
壁蹴りたくって、すごい勢いで何か口走ってるの。
しかもそれ、男の声よ? どうしようもなくて立ち尽くしちゃったわよ。壁はポルターガイストが起きたときよりめちゃくちゃに鳴るし、出るだの何だのいう喘ぎ声はどんな幽霊の声より野太くて怖いし。正直、幽霊なんかより、こんな奴に襲われる方がおっそろしいことだと思うの。
……ほんっとにゴメン。座談の最初っから気分悪くさせちゃってるわね。でももう終わるから安心して。
でよ。目もばっちり冴えて、まだドンドン鳴ってる壁を睨んでたら、急に別の声がしてね。
「ご、ごめんなさい……怖いです……ごめんなさい……」
気弱そうな男の人。姿は見えなかったけど、声色が今にも泣きそうだったのがお笑いね。
でね。その声と気配が遠ざかるのと同時に、まとわりついてた蟲もぜーんぶ消えた。それからその日以来、ポスターガイストも幽霊も何もかも、皆なくなっちゃったのよ。絶対これ、あのゴリラみたいな喘ぎ声のせいよ。
うん、あの日ナニしてた人に感謝はしてる。あんなのにまとわりつかれ続けるのも大変だったから。
——でも、次の日うるさかったって注意しに行ったら、もやしがでてきてボーゼン。こんな細っこい男からあんな声が出てたまるかって、思わずそいつのこと蹴りたくりそうになっちゃったわ。
……うーん、オチがないのよね、これ。
ホンット、最後までごめんね。店長の話に期待するわ、アタシ。
