複雑・ファジー小説

Re: 奇譚、有ります。 ( No.9 )
日時: 2014/06/05 01:15
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: 7hsLkTT7)
参照: 伍  (語り部:杉下 佐京)

   『渋滞の多い道』



 ひい祖父さん、さぞかし良い御人だったんだろうねェ。ウチの横柄で博打好きのひい祖父さんとは大違いさね。まあね、アッシにゃいろいろ贅沢もさしてくれたけども、ひい祖母さんにもトト様にも乱暴な人だったから、アッシはあんまりひい祖父さんに良い記憶ってなァ持ってないのサ。
 ま、そのひい祖父さんについてはまた後にも話しやしょ。まだまだ座談は始まったばかり、初っ端はちょっと軽いものをネ。短いし怖くないよ、お膝崩して楽に聞いてくだせぇな。

 あれは三年前のこと、むさっ苦しい暑さも緩んだ、夕刻さな。
 「そこ」は何故だか毎日毎日ゴミゴミするトコでね。無論、四つ角で曲がったり進んだりする車が多かったってのもあるんだけど、それを抜きにしても渋滞の凄いところなワケさね。だから、カーナビの発達した今のご時勢、アッシはそこを通るときはオートリルートなんてものに頼っているわけだけども。
 でも、その時ばかりはそこの四つ角を曲がっていかなきゃならない用事があってネ。一分に三十センチも進めない渋滞の中を、燃費の悪いボロ車でノロノロプスプス走ってたんでさァ。
 そこでアッシは、初めて渋滞の多いその道の、混雑する理由を知ったってワケだ。

 そうだねぇ、十分かそこらくらいはそこで足止めされたかね。
 前の車がようやっと道をノロノロ曲がって、さあアッシも通り過ぎようって、アクセル踏んだ時だナ。

 そう、声がするんさね。
 「待って、ちょっと待って」っつって。

 いやービックリさ。思わずギュッとブレーキ踏んで、後ろの車から思いっきりクラクション鳴らされながら前見たら、何かいるんだヨこれが。アッシの車と五十センチも離れてない所で、真っ白なワンピースに麦藁帽被った、うっすら向こうの透けてる女の子が、頭の上で腕交差させてんのさ。
 アッシもそこで初めて気付いた。なるほど、これが原因かって。
 まあ、きっと普通の車なら幻覚か幻聴と思って通り過ぎちまうんだろうねェ。でもアッシはほら、そこの辺幻覚幻聴で済ませられる奴じゃねぇモンで。幸い近くにコンビニがあったから、そこに車寄せて、相変わらず待って待って叫んでる女の子に声掛けてみた。「何かあったんか」って。
 そしたらその女の子、「これ見て」って言いながら、自分の足元指差すんだ。んでアッシが見てみたら、そこにゃびゅんびゅん通る車で渡りあぐねてる半透明のカルガモ親子七匹だよ。その女の子、幽霊になってまでこの幽霊カルガモ親子を渡らせたかったらしいでサ。

 ちょっと笑っちまったけど、こうなっちゃーこの杉下さん、やらいでかってね。
 その幽霊女の子とカルガモ連れまわして、すぐそこの横断歩道を、「青になってからだ」って念押しして一緒に渡ったわけだ。今までその女の子、青になったら車が止まるってこと知らんかったみたいでね。
 んでさ、何のこたァない、だだっ広い道路を渡り終わった後、その子えらい感動してねェ。これならいつでも渡っていける、どうもありがとうって、アッシの手握ったつもりになって上下にぶんぶん振りまくってさ。それから。麦藁帽に挿してた半透明のひまわりアッシに渡して、ワンピースの裾ふわふわ翻しながらカルガモと一緒に駆けてった。
 ふと見てみりゃ、アッシの足元には摘んだばっかりのまだまだ黄色いひまわりが一本、ぽとっと落っこちてたよ。

 うん、その女の子がどしたかじゃろ。今から話そうと思ってたトコさ。
 そう、その女の子、今もたまーに見るよ。今度はちゃんと、横断歩道を青で渡ってる姿をネ。
 だからかなァ、最近そこの道、全然渋滞しないヨ。