複雑・ファジー小説

Re: ユーリの冒険【キャラ募集】 ( No.13 )
日時: 2014/05/10 16:29
名前: 千螺虔迅 (ID: gOBbXtG8)

 呼吸さえ止まりそうなユーリに近付く人物がいた。
 優雅でミステリアスな雰囲気を醸し出す女性〈モード・リントヴルム〉だ。全体的に大人っぽいが、顔立ちはまだ若い。
 荒野を駆ける強い風に色素の薄い水色の髪を揺らし、眠そうに細められた赤い瞳をユーリに向ける。
 煙管を右手に持っており、優雅に紫煙を燻らせている。だがそれも全て、時折吹く荒んだ風に溶けて消えている。

「可哀想に……」

 その女性は煙管をしまい、ユーリを抱え上げた。身につけている白いワンピースが、血で汚れると分かっていながら。
 気を失っているユーリの傷ついた顔を見据え、女性は少しだけ悲壮感を漂わす表情を浮かべながら転移魔法を唱えた。
 赤く光る魔方陣が足元に出現し、ユーリ諸共その場から消え去る。


  ◇ ◇ ◇


「——間違いではないのだな?」
「はっ。ユーリ上等兵は最後の通信から推測して、何者かによる奇襲を受けた後に姿を消したと思われます」
「むぅ……」

 偵察軍本部にて、ラウラはユーリの同僚から状況報告を受けていた。

 ユーリが失踪した事件はすぐに問題となった。
 悲鳴を最後に通信が途絶えた後、ラウラは急いで出撃中の部隊に最優先任務を変更する指示を出した。内容は、ユーリの捜索。
 様々な捜索を専門とする部隊にも出撃命令が下った。

 それから二日が経ったが、ユーリは見つかっていない。
 当のユーリを襲撃した犯人や敵部隊の全滅についても全力で捜査をしているが、進展はまるでない。
 各部隊が全力で捜査して現時点で発見したのは、ユーリの血飛沫と何かが爆発した痕跡だけ。
 脱走した可能性も考えられたが、あの時点での脱走など到底出来るはずもない。
 案の定捜索部隊は、念のためにとユーリが携わってきた家々を周ったが、誰も発見者はいないとのことだ。

 それよりも軍は、自分の子供が失踪したことを知ったらしいエマの対応に困っていた。

「お願い! はやく……はやくユーリを見つけて!!」
「ちょっと奥さん! 落ち着いてください!」

 現在もエマは、司令室で門前払いを食らっている。
 エマにとってユーリはただ一人の子供だ。このようなことに陥ってしまっても、当然と言えば当然である。

 それに、ユーリが失踪して悩んでいるのは何もエマや軍だけではない。
 リクやフロイを初めとする人々もユーリの身を心配しており、中でもリクは一層心配していた。
 どうせそのうち戻ってくる。健気に明るく振舞おうとそう言っているリクだが、いつもの勢いがない。


  ◇ ◇ ◇


 ユーリが失踪して五日が経った。
 その日の夜、リクは質素な木造ベッドに、宛ら無くなった元気を取り戻すかのように乱暴に倒れこんだ。
 だがやはりというか、曇ったような気持ちはそれだけでは晴れなかった。

(くそ! ユーリ、戻って来いよ……)

 古びた白いベッドシーツを握る。その手に力はまるでなく、とても弱々しい。
 中々寝付けないでいる彼の表情は、酷く後ろ向きになっている。本人の意思に関係なく。
 丁度近くにあった姿見に映った自分と目が合い、リクは頭を振った。

 やがてリクは、何か思い立ったかのようにベッドから降りた。
 それから長い時間をかけ、入念過ぎると言っていい身支度を完了する。
 旅支度、という言葉が正しいだろうか。そんな準備をしたリクは、リビングのテーブルに書置きを残した。

「じゃあな、母さん。父さん」

 愛用している剣を腰に帯剣し、リクは家の鍵も持たずに家を出た。

 書置きには乱雑な字で「探さないで」という一文が綴られていた。