複雑・ファジー小説
- Re: ユーリの冒険【キャラ募集】 ( No.24 )
- 日時: 2014/05/11 16:56
- 名前: 千螺虔迅 (ID: gOBbXtG8)
その後モードが呼んだ医者によると、やはりユーリは記憶喪失となっていた。
予てより嫌な予感がしていた二人だったが、いざ現実を目の当たりにするとどうしても逃げたくなるのだった。
ユーリは、今まで自分がやってきたことや覚えたことを忘れてしまっている。
感情を失ったわけでもなければ、世情の様々な常識など、考えなくても分かるようなことは忘れていない。
目の前に悲しむ人がいれば、きっとユーリも悲しむこととなる。
モードはユーリが記憶喪失と分かっても、特に悲壮感を漂わすことは無かった。
それでも心のどこかでは、絶対に悲しんでいる。何故なら彼女は、列記とした人間なのだから。
「どうしましょう、モードさん」
医者についてきた治癒魔法専門の魔道士により、ユーリは完全に回復した。
が、気持ちだけは回復できないままだ。元気になった自分の身体を玩びながら途方に暮れている。
そんなユーリに対して、モードは応答しなかった。代わりに、彼女は真っ白な扇子を取り出した。
「記憶を取り戻したいかしら? 記憶巡りの旅に出る意思があるなら、私も手伝うわよ」
モードは扇子を開き、少し離れた場所にある木像へ向けて一振り扇いだ。
すると一瞬だけ風の音がして、次の瞬間に鎌鼬が木像を木端微塵に切り刻んだ。
痕跡を見る限りでは、切り刻んだというよりは粉々に潰したようにも思える。よほど真空波が細かかったらしい。
「……すごい」
ユーリは単純に驚いていた。
ここまで戦闘の実力があるとは思わなかったからだ。
モードは扇子を閉じると懐へしまい、代わりに例の煙管を取り出して紫煙をふかし始めた。
「一人とは弱いもの。特に人間は群れで生活しないと、より一層弱くなるのよ」
紫煙を燻らせ、鬱陶しそうに水色の長い髪をかきあげる。
彼女が持つ独特の赤い瞳は、まるで光っているかのような、何かを悟っているかのような目つきをしている。
旗から見ると只眠そうなだけだが、ユーリにはそうではないと実感することが出来た。
「どうするのかしら? ここで隠居するのもいいし、元々貴方がいた家に帰るのもいいと思うけど」
そんな優しくも強い眼差しを、頭一つ分下にいるユーリの目に向けた。
対してユーリは、静かな強い意志を藍色の瞳に宿していた。その意思と無言を以って、ユーリは返事を返す。
察したモードはやれやれと、呆れと紫煙を含んだ溜息をついて柔和な笑み浮かべた。
「あくまでも記憶を探すというのね? 冒険好きなのは、記憶を失っても変わらないみたいね……」
ユーリは人懐っこい笑みを浮かべ、感謝の意味をこめてモードに抱きついた。
◇ ◇ ◇
「……ふーん、そういう未来か……」
独り言を呟く女性がいた。
ベージュのローブに身を包んでおり、右手には美しい銀細工を施した杖が握られている。
現在巷を騒がせている、未来予知者の<プレシエ・サルヴィ>だ。
彼女はモードとユーリがいる家の近くで、休憩のフリをしながら草木に隠れ、勝手にユーリの未来を視ていた。
だが見えたそれはかなり曖昧なもので、ノイズが入ったラジオのように酷く不鮮明に視えた。
彼女のほかにも、未来予知者は少なくとも存在している。中でもプレシエは練度が高い方であり、かなりの有名人である。
それでも、未来とは狙って見えるものではない。遠くて精々二日後、しかもそれが二日後かどうかはかなり怪しいところだ。
結果的に信用性は低いものとなるのだが、彼女はこの力で今まで食い繋いできた。
いい加減でも自分の未来を知りたがるような窮地に陥った人間がどれだけこの世にいるのか、この現状でよく分かるだろう。
(練度不足だね……うん、そうだよ。きっとそうに違いない)
勝手な自己解決を終えて満足し、彼女はその場を後にした。