複雑・ファジー小説
- Re: ユーリの冒険 ( No.27 )
- 日時: 2014/05/14 18:42
- 名前: 千螺虔迅 (ID: gOBbXtG8)
「貴方、何でも願いが叶っちゃうような魔法が、一回だけ使えたなら何を叶えたいかしら?」
草木や木々の根の所為で足元が悪い森林道。
慎重に進むユーリは不意に、自分の前方を行くモードに問いかけられた。
何故だろう。どこかで聞かれたことがある気がする。
そんな暢気なことを考えながらユーリは、やはり暢気な答えを口にしていた。
「記憶を取り戻したいんだ。ボク、ただでさえ無力だから……」
「あら」
意外そうな表情を浮かべ、細められた目を大きく見開くモード。
見ればユーリは、少しだけ目を潤ませて彼女を見上げていた。
まるで、記憶を失ったことに対する罪悪感を抱いているかのように。
「ボクってほら、記憶ないらしいじゃん」
ユーリの記憶喪失は極めて特殊なものであった。
通常の記憶喪失とは、言語と本能を脳に残したまま一切の記憶を忘れてしまう。
だがユーリの場合、考えなくてもいいような常識を記憶にとどめている。
忘れてしまったことは、今まで自分が何をしていたのかという記憶と知り合った人名のみだ。
「こんなお荷物ほど重たい枷なんて、きっとないよ……」
ユーリの発言は当たっている。
これまでに記憶をなくした人々は世界で五万といるが、そういった人々は介護福祉施設にお世話になる老人達に同じ。
そんな立ち位置にいれば当然、大きく身の回りの人々の足を引っ張ることになる。
考えるまでも無い。ユーリも本能で分かっていた。
モードは落ち込んだようなユーリに、咎めるような鋭い視線を向けた。
「記憶を探すのなら、もっとシャキっとしなさい! 女の子だからって、女々しいことばかり考えてると罰が当たるわよ?」
モードは身内以外で、唯一ユーリの性別を知っている。
ほんの僅かな胸の膨らみがユーリを女性だと語っているが、その他中性的な見た目と性格が目立つので皆は翻弄される。
リクのように頭が悪いと尚更だ。
「モードさん……」
「記憶はね、私が探すんじゃないの。貴方が探すのよ?」
「……うん、そうだよね」
モードから勇気をもらったらしいユーリの目は、潤んでいつつも輝いていた。