複雑・ファジー小説

Re: ユーリの冒険 ( No.31 )
日時: 2014/05/18 10:24
名前: 千螺虔迅 (ID: gOBbXtG8)

「ふーん、コイツは毒なのか……」

 リクは一冊の分厚い本を片手に、何処にでも生えていそうなキノコを片手に持って一人で感心していた。

 ユーリの居場所を特定できた彼は、その後は普段"学び"に耽るようになった。
 己の馬鹿さ加減にイラッと来たらしく、こうなったら少しでも賢くなってやろうと怒り混じりに学んでいるのだ。
 まずは手近なことから。ユーリを探すに当たって、恐らくは長い冒険をすることとなる。
 よって、食用の山菜やキノコなどの判別が出来ないのでは、あっという間に死活問題になるのは目に見えている。
 こればかりは流石にリクも理解していたらしい。

 キノコについて調べ終えたリク。溜息をつくと同時に立ち上がった。
 どうやら手に持っていたキノコは、食べると即死する毒を含んでいたらしい。
 リクは草むらへ向かってそれを放り投げ、少しずつ旅路を歩みながら、再び調べ物の作業に夢中になり始めた。

 彼が手に持っている本は一種の図鑑で、主に野山で見つけられる食用の山菜などについて詳しく載っているもの。
 他にも彼の鞄には、冒険やサバイバルの面で技術を習得するための心得や知識をぎっしり詰め込んだ本も入っている。
 加えて料理本なども数冊入っていて、如何に彼が自分を磨きたがっているのか、これを見れば手に取るように分かる。

 さらに、リクはもう一つ分かったことがあった。

(あいつ、女だったんだな……)

 彼の言う"あいつ"とは、言わずもがな彼の親友〈ユーリ・アルフォンス〉のことである。

 彼は千里眼を使ってユーリを探した際、彼女が女性であるということが分かったのだ。
 だが、最初から千里眼を使えばよかったと思っている一方で、今になって使っても良かったんじゃないかと思うところもあった。
 リクはユーリが女性であると分かって以来、何か彼女に惹かれるものが心に芽生えたのだ。
 きっとこの感情は、最初から千里眼を使っていては無かったものだろう。

(あいつの為にも、早いところ知識をつけないとな)

 成長した自分を見てもらいたい。その思いもあって、リクは作業のスピードを上げた。


  ◇ ◇ ◇


「すみませんが、我々は何も……」
「そうですか……ありがとうございます」

 一方でフロイも、ユーリの捜索が難航していた。
 彼女はリクのような特別な力を持っていない故に、手当たり次第に町の役所に赴き、何か情報を聞きだすことしか出来ない。
 それに、奇跡的に情報を聞きだせても結果は盥回しにされるばかりで、何度も足踏みを繰り返しているのが現状である。

 今日も情報は手に入らなかった。

「おい」
「ふぇ?」

 溜息をついて町を出て行こうとしたとき、フロイは不意に背後から声を掛けられた。
 振り返れば、紺がかった黒髪ショートの男が彼女を見据えて立っていた。
 腰にはロングソードが帯剣されている。あまり使っていないのか、その真っ白な刀身は真新しい雰囲気を漂わせている。

「あ、貴方は?」
「あぁ、俺はシアン。シアン・ライトクリスだ。そんなことよりも……」

 シアンと名乗ったその男はフロイに歩み寄る。

「数日前から怪しい行動をしていると聞いたお前をつけてきた訳だけど、どういうことか説明してもらえる?」

 まさか怪しまれていたとは。思った以上に目立っていたのだろうか。
 そんなことを考えたフロイは、誤解を解くためにこれまでの経緯を全て話した。
 それを聞くシアンは、かなり神妙な表情を浮かべていた。曰く、彼はユーリの友人とのことだ。
 他人事ではないと言い張った彼は、半ば強引にではあるがフロイの旅についていくことを決めた。