複雑・ファジー小説
- Re: ユーリの冒険 ( No.35 )
- 日時: 2014/05/25 09:06
- 名前: 千螺虔迅 ◆xJD03r/VXY (ID: gOBbXtG8)
「ボクの事知ってる人、中々いないね」
「まあ、記憶探しだからね」
数ヶ月が経った。
フロイとシアンの組、リク単独、ユーリとモードの組が動きを見せている中で、ユーリたちは依然、記憶探しに専念していた。
誰かユーリの事を知る人物は居ないか。見て何かを思い出せるようなものは無いか。そんな手探りのような作業を繰り返している。
手がかりなどあるわけが無い。蝸牛の様なスピードで、二人は世界中を見て回っていた。
今のところ収穫は無い。つまり、ユーリの記憶は一切戻っていないのが現状であった。
世界の1/4位を回った頃から、ユーリは段々と弱音を吐くようになっていた。
その度にモードが彼女を宥めるので、一応立ち直りはするのだが、それでも意思は段々と弱くなってきている。
モードは困りかけていた。よもやここまで来て挫折することは無いだろうが、何時か本当に挫折しそうで。
「あれ? ユーリ?」
その時だった。どこか懐かしい聞き覚えのある声がして、その声をユーリがしっかりと捉えることができたのは。
二人が声の発生源を探していると、脇道に生えている背の高い草むらがガサガサと音を立てて揺れた。
魔獣か。そう思って二人は警戒を始めたが、出てきたのはレザーで出来た冒険者の服に身を包んだリクだった。
「っ!」
一瞬目を見開く。ユーリは、その人物を知っていた。
過去形と思われる映像が明確に脳裏で再生されるが、何れの映像にもリクがいる。
そして、名前も思い出すことが出来た。映像の中で確かに自分は、目の前に立つ少年を〈リク〉と呼んでいたのだから。
だが、その際にいつも傍らに居た少女の名が、彼女は分からなかった。
「えっ……り、リク?」
「やっぱりユーリじゃん! 久し振りだなー、今まで何処ほっつき歩いてたんだよ全く」
しかしユーリは、そんなことは気にしなかった。
朗らかに笑って近付いてくるリク。彼が懐かしくて温かく、同時に凄く愛おしい。
眼前に立つ彼の胸に、飛び込まずに入られない。彼女はそんな衝動に駆られた。
「うわっ! おい、ユーリ?」
「リク……」
気付けばユーリは、傍観するモードを傍目に、無意識のうちにリクの胸に飛び込んでいた。
目からは涙が溢れている。まるで、不安だった何かを全て洗い流すかのように。
リクはそんなユーリに一瞬戸惑いかけたが、彼はすぐに素直に、自分の胸に飛び込んだ冷め切った温もりを受け止めた。
彼の温もりが彼女の全てを包み込み、より鮮明に記憶を思い出す。
ノイズが入った白黒の、かなり見え辛かった記憶の映像には色が付き、音も綺麗になってまた再生される。
経験したことなどないが、まるで久しく故郷に帰ってきたかのような感覚であった。
いや、もしかしたら今、彼女は経験しているのかもしれない。彼の腕の中は、彼女にとっては懐かしい故郷なのだろうから。