複雑・ファジー小説

Re: ユーリの冒険 ( No.42 )
日時: 2014/07/19 22:53
名前: 千螺虔迅 ◆xJD03r/VXY (ID: gOBbXtG8)
参照: 早速更新に入ろうと思います。

 ユーリは一頻りリクの胸で泣いた後、僅かに思い出すことの出来た記憶の追憶を始めた。

 "リク・フォレスノーム"
 この少年の名は、確かに思い出すことが出来た。
 何故なら、とても心に響く名前であるから。

 そして、彼と過ごした温かな日々も思い出すことが出来た。
 いつか泥にまみれて遊んだこと。
 いつか喧嘩をしたこと。
 いつか共に学問に励んだこと。
 いつか共に悪ふざけをして、誰かに怒られたこと。

 全てが懐かしく、とても愛おしい。
 言葉じゃ言い表せられない、リクと歩んだ日々の軌跡。
 何よりの宝物だ。

「リク、ごめん。心配かけたね」
「いいって、別によ。どうやらモードさん? 曰く、お前記憶を失ってるそうじゃん?」
「う、うん」
「だったら探せば良いさ! 安心しろよ、俺がついてるだろ?」
「——ありがとう」

 ユーリはリクの頬を、両手で優しく包み込んだ。
 今ここに、愛おしく想える人が近くにいることを感じたくて。
 そんな2人の温かなやり取りを見守っていたモードも、自然と笑みがこぼれた。


   ◇ ◇ ◇


「さあ、始めようか」
「いいだろう。やれ」

 不穏な声が2つ、血と屍で穢れた荒野にある。
 それでも荒野の自然は厳しく、絶えず吹く砂嵐は、ここで人が死んだことを隠すかのように屍に砂を被せる。
 木霊した声のうち、明るい青年の声を持つ白ローブの男は、指をパチンと鳴らした。
 同時に低くドスの聞いた声を持つ黒ローブの男が、地面に赤い宝石が埋まった黒い杖をつき立てる。

 すると、杖を中心に赤い魔方陣が展開され、それはこの荒野を全て飲み込むように広がった。
 一方で白ローブの男は周囲の大気から魔力を集め、絶えず黒ローブの男が持つ杖に注ぎ込んでいる。
 時間と共に赤い光が増す中で、2人は静かに会話を交わす。

「この荒野の特徴を、まずは知らないとね」
「そうだな。だがサテライト皇国の連中がここで死滅している以上、原因はあれしかないだろう」
「まあ、そうだろうね。それに————」

 白ローブの男は、声色を真剣なそれへと変える。

「————ユーリちゃんもここで喪失している。徹底的に調べるよ?」
「————承知」

 やがて魔方陣は、魔力充填の限界を突破。大きな爆発を起こした。
 その爆発力は周囲の岩などを根こそぎ吹き飛ばし、地面の砂を全て吹き上げるに至るほどの破壊力を誇った。
 吹き飛ばされた砂は魔力の奔流に飲み込まれ、間接的な錬金現象を引き起こし、文字通りその場から全て消え去った。
 このローブ姿の2人が、どれほど手馴れた魔法使いか。この状況がよく物語っていて、見て取れる。

 砂が吹き飛ばされて現れたこの荒野の地下には、大規模な人工設備が数多建設されていた。