複雑・ファジー小説
- Re: ユーリの冒険 ( No.43 )
- 日時: 2014/07/23 14:27
- 名前: 千螺虔迅 ◆xJD03r/VXY (ID: gOBbXtG8)
気を取り直したユーリたちは、風に身を任せてのんびりと大草原を歩いていた。
しばらく歩いているとリクが、地面に大きな窪みがあるのを発見した。
クレーターのようなそれは、澄み切った青空と果てしない草原の水平線のもとで一際目立って見える。
「何だよ、これ」
その窪みは歪な形をしていた。
形は渦を巻く水のようであり、窪みの最下層はやけに平たく、亀裂が入っている。
その亀裂なのだが、孤を描きながら、中心から外形に沿って入っている。それも気味が悪いほどに規則正しい。
今にもぱっくりと開きそうだ。
「これは……」
まるで作られたかのようなその窪みをユーリとリクが見下ろしていると、ふとモードが口を開いた。
珍しく険しい表情を浮かべて、形のいい眉根を顰めている。まるでこの窪みを知っているかのように。
「モード、分かるの? ボク全然分からないんだけど」
「同じく俺もサッパリだ。天才の考えてることって、やっぱ馬鹿とは違うのかもな」
「むっ、遠まわしにボクを馬鹿って言ったね?」
「は? ……あぁいや、そうじゃねぇよ!」
ユーリの言葉に反応が一歩遅れたリク。
やはり生まれつきの馬鹿さ加減はどうにもならないらしい。
するとその時、低い男性の声がした。
「それに近付くな」
「へ?」
3人が背後を振り向くと、そこには黒い甲冑に身を包んだ男が立っていた。
兜を被っていて表情が窺えないが、仮面の向こうの表情は、きっと険しいことだろう。
「そこの女……その窪みが何かを知っていないわけではあるまい?」
「——思い出したわ。確か、魂の井戸だったかしら?」
「そうだ」
"魂の井戸"
それはこの地域に伝わる伝説の逸話にて、何度も何度も繰り返し出てくる単語の1つ。
素性はまるで知れないが、言い伝えの1つには、命を持つ生物から魂を吸い取るという話がある。
それ故に"魂の井戸"という名がついたが、実際に誰かが調べたわけではないため、真偽は未だ闇の中。
ただ分かることは1つ。ここに派遣された考古学者たちは皆、消息不明に至るということだけ。
「分かったならば、さっさと立ち去るが良い。悪いことは言わん」
「リク、ユーリ。今はここから離れましょう」
「何でだよ?」
「理由は後で話すわ」
珍しくモードが焦っている。
よほど危険な場所なのだろうと思い、リクとユーリは大人しくモードについていった。
だが、ユーリだけその男に呼び止められた。
「ユーリ」
「何?」
「お前、俺を覚えていないのか?」
「————え?」
その男は"ゼルフ・ニーグラス"と名乗った。
兜も脱いだ。さらさらとした金髪と力強い黒瞳が印象的である。
しかしユーリは彼を知らない。思い出せない、という方が正しいのかもしれない。
もしかしたら記憶を失う前だったら覚えていたのだろうが、きっと——否、絶対にそうではない。
誰かと出会えば、対象の記憶が甦るはずだ。しかし、今回はそれが無い。
「ごめん、覚えてないや」
「——そうか」
ゼルフはどこか残念そうな表情を浮かべ、そのまま明後日の方向へ立ち去った。
首を傾げるユーリも、いつの間にか遠くなっていたモードたちに追いつくために走り出した。