複雑・ファジー小説
- Re: ユーリの冒険【キャラ募集】 ( No.6 )
- 日時: 2014/05/09 16:28
- 名前: 千螺虔迅 (ID: gOBbXtG8)
大型のバイクが一台、荒野を疾走している。
ゴーグルに頭巾のような帽子、野営地で活動するような服や銃器を身に纏った人物がバイクを運転している。
顔立ちも体躯も幼い運転手<ユーリ・アルフォンス>の後ろには、年老いた男性がユーリに腕を回して捕まっている。
「君は、願いが一つだけ叶うとしたら何を叶えたい?」
後ろに乗っている男性がふと、ユーリに語りかけた。
ユーリは視線を変えないまま前を見据え、何も言わずに運転を続けている。
男性は、直ぐには答えられない質問だったのだろうと思い、そうかそうかと呟くだけであった。
だがユーリは、何も考えていないわけではない。
不意にかけられた素朴で意外な質問に、少し混乱しているだけだ。
そういえば、自分だったら何を叶えたいだろうか。その疑問だけが胸を渦巻いている。
今までユーリは、そのような質問をされたことがなかったのだ。
ひょっとしたら幼い頃にされていたのかもしれないのだが、明確な答えは一度も出したことがない。
何となく、その場の空気にあわせて答えていたものが多かった気がするのだ。
(ボクは……)
ユーリは答えを出せないまま、男性を目的地まで送っていった。
◇ ◇ ◇
翌朝、ユーリは朝日と小鳥の鳴き声で穏やかな目覚めを迎えた。
が、気分はまるで優れない。体調不良というわけではなく、あくまで気持ちの面で、だ。
先日男性にかけられた質問に対し、ユーリは夜になって答えを出していた。
果たしてこの答えが、本当に叶えたいことなのか。その点で未だ悩んでいるのだ。
(あぁ、もう……!)
ユーリは首を振って、欝な気持ちを無理矢理追い払った。
そもそも、何でも一つだけ願いが叶うなんて都合のいいことがあるわけない。
世の中のどのような魔法を以っても、それは明らかに不可能だ。
仮に出来たとしても、それに伴う大きな犠牲を払うことになるに決まっている。
全ては等価交換。世の中というものはそんなものだと、ユーリはよく分かっていた。
ユーリがベッドから飛び降りた頃、白く上品な扉をノックする音が響いた。
「おはようございます、ユーリ様。起きていらっしゃいますか?」
尋ねてきたのは、ユーリに仕える侍女だった。
ユーリは眠い目を擦り、欠伸をしながら対応する。
「起きてるよ。入って」
「うふふっ、では、失礼しますね」
典型的な侍女服を身に纏った、ピンクの長い髪を後ろでひとつに纏めた女性<アスカ・ヴァレスタイン>が入ってきた。
「おはよう、アスカ」
「おはようございます。今日は午前は晴れますが、午後から雨模様になる可能性があります」
「わかった」
ユーリに今日の天気を報せるのはアスカの役目だ。
他にも彼女は、知りえた情報はなるべくユーリに伝えることとしている。
これは侍女としての基本的な義務であり、必ずや務めねばならない。
そんな彼女はお盆に載った紅茶と朝食を、ユーリの部屋に置かれた白いテーブルに置いた。
「ん、ありがとう」
「では、失礼します」
アスカは丁寧な仕草で、ユーリの部屋を後にした。
◇ ◇ ◇
(さて、着替えないと……)
一人での朝食を終えたユーリは、洗面を済ませた後に部屋へ戻ってきていた。
クローゼットから取り出したのは、偵察に向いた軍服の一式。昨日着ていたものとほぼ同じものである。
急いでるわけではないが、ユーリはそれを素早く着た後、部屋の片隅に置いてあった銃を二つ携えて部屋を出た。
携えた銃は、狙撃銃とアサルトライフルの二種。銘柄はない。ユーリに合わせて作られた特注の銃だからだ。
「ユーリ、気をつけるのよ?」
「大丈夫だよ。慣れてるから」
しばらく歩いて玄関先まで来たとき、上品な紫の衣装で着飾った母<エマ>がユーリを出迎えた。
ユーリは軍隊に所属する兵士で、階級は偵察上等兵に位置する。
立場上ユーリは家に帰って来れるが、それでも戦場へは毎日のように駆り出される。
このような立場にいて何時死ぬか分からないユーリを、エマは非常に心配している。
そんな心配性のエマに対してユーリは笑顔で返し、家を出て行った。