複雑・ファジー小説
- Re: ユーリの冒険【キャラ募集】 ( No.9 )
- 日時: 2014/05/09 19:16
- 名前: 千螺虔迅 (ID: gOBbXtG8)
ユーリは早速、先日と同じバイクに跨ってエンジンをかけた。
このバイクは軍用ではないので、市販で普通に手に入れることが出来る。
それでも丈夫でタフな上、パワーもさることながら音もそれなりに押さえられている。
単独での移動手段には最適である。
早速目的地へ行こうとした時、遠くでユーリを呼ぶ声がした。
ユーリにとって最も聞き覚えのある声であり、その声は二つ存在している。
後ろを振り返れば、ある意味予想通りの人物が走ってくるのが見えた。
「よう、ユーリ! 今日も戦場かよ?」
「うん」
やってきたのは、第一印象がガキ大将に相応しい少年〈リク・フォレスノーム〉だった。
彼のあとに続いてもう一人、赤い軍服に身を包んだ少年のような少女〈フロイ=バウムクーヘン〉もやってきた。
「はぁ、はぁ……ごめんユーリちゃん、バイク後ろ乗せて!」
「いいよ」
「あ、ありがと……」
フロイは息を切らせている。どうやら遅刻寸前らしい。
早速彼女はユーリの許可を得て、バイクの後部に跨った。
彼女の豊かな——傍目にはそう見えない——胸が、ユーリの背中にダイレクトに当たる。
「ヒューヒュー! お熱いねぇ二人とも!」
「え、え?」
「フロイ、リクなんかほっといて行くよ」
「あ、うん」
横から茶々を入れるリクを置いて、何が"お熱い"のか分からず戸惑うフロイを乗せて、ユーリはバイクを走らせる。
走り出した後でリクが何かを叫んでいたが、フロイは聞こえなかったので気付かず、ユーリは聞こえていたが無視していた。
◇ ◇ ◇
ユーリとフロイは同じ軍に所属しているが、フロイは衛生兵なのであまりユーリと戦場で関わることがない。
ユーリが偵察兵なので、怪我を滅多にしない故だ。逆に言えば、フロイも衛生兵なので戦火の真っ只中に赴くことはまずない。
それでも嘗ての軍事学校で級友だったので、フロイトユーリは親しい仲にある。
「ねぇユーリちゃん。ボクたち、何が熱かったのかな? リク君そんなこと言ってたけど……」
荒野を移動している最中、フロイは先ほどのリクの言葉についてユーリに問いかけた。
問いかけられたユーリは思わず、彼女の質問に対して呆れを多分に含んだ溜息をついてしまった。
「気にしたら負けだよ、フロイ」
「?」
ユーリの意味深な返答に、フロイはただ首を傾げるだけであった。
◇ ◇ ◇
ユーリたちはその後、遅刻することなく軍の本部へと到着することが出来た。
早速仕事があるらしいユーリは戦場へと赴き、フロイは暫くの間詰め所で待機することとなった。
が、一匹狼のユーリは軍の仲間と離れ、単独で戦場の視察へ向かっている。
(——うーん……)
双眼鏡の役割を果たせるゴーグルを使い、ユーリは首を傾げていた。
現在冷戦状態である相手国の軍を視察に来たのだが、先日までいたはずの敵が全くいない。
陣地さえも撤去されており、見渡す限りの荒野である。
ユーリは偵察兵軍曹に通信を入れた。
『こちらラウラ。どうした?』
威厳ある女性の声が通信機越しに聞こえてきた。
「敵がいません。陣地も完全に撤去されているようです」
『何だと?』
そんな馬鹿な。そうとでも言いたげな偵察兵軍曹〈ラウラ・シュバルツ〉が神妙そうな声を上げる。
『見間違いではないのか?』
「C−6地点がボクの担当地区ですよね? それでしたら、やはり敵はいません」
『どういうことだ……』
「——あ」
ラウラが何やら頭を悩ませている最中、ユーリは何かを見つけたようにゴーグルをはめた。
どうかしたかと尋ねるラウラの声を他所に、ユーリはゴーグルのピントを合わせる。
遥か先に見えたものは、内臓や血を一切の例外なくぶちまけた、紛れもない敵の屍たちだった。
「うっ」
初めて見る人の骸に、ユーリは気分が悪くなる。
「て、敵の屍を発見しました……それも数多の……」
『何ィ!?』
ラウラは声を荒げた。
昨日のうちに何があった、夜間警戒していた兵士達はどうしたなどと、ラウラは酷く混乱して慌てている。
通信機越しに、様々な指示が回っていることが分かる。本部のほうも酷く慌てているようだ。
『アルフォンス、お前は陣地ではなく本部へ戻って来い! 気をつけろ!』
「あ、は、はい。すぐに本部へ戻ります」
ユーリは通信を切り、急いで撤退の準備を始めた。
が————
「あうぅ!」
ユーリの悲鳴が、静寂を切り裂く銃声と共に荒野に木霊した。
腕を狙撃されたらしい。幸いにも掠った程度だが、血は出ている。
どこから狙撃してきたのだろうか。非常に気になるところだが、留まっているわけにはいかない。
ユーリは出血を手で押さえながら走り出す。走る中で痛みを堪えながら、通信を入れた。ラウラが即座に対応した。
『こちらラウラ。どうした?』
「て、敵襲、です……狙撃され——きゃあぁあ!」
『おい! どうした!?』
次はユーリの背後で、大規模な爆発が起きた。
爆風に巻き込まれて吹き飛ばされ、近くにあった岩にそのままの勢いで全身を強打し、倒れる。
頭部や脚、腹などからも血が出てきて、火傷も伴って全身に激痛が走る。
「う、うぅ……」
意識が朦朧とする中で、ユーリは通信機を探した。が、通信機は粉み微塵に砕け散っていた。
最早、全力で逃げるしかない。いずれは死ぬと分かっていても、足掻くしかない。ユーリは何とか立ち上がり、歩き出した。
走ることはもう出来ない。ユーリは出来る限りのスピードで、その場を後にしようとする。
「っ!」
ユーリはまた、銃声を耳にした。同時に弾丸が肩に命中する。
再び襲い来る激痛に耐え切れず、ユーリは意識を落とした。