複雑・ファジー小説
- Re: ライオンさんとぼくのお話 ( No.29 )
- 日時: 2014/05/15 20:49
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
第23話
翌日、星野くんがぼくの家に来た。
きょうは土曜日ということもあってか、星野くんは白のシャツに灰色ののズボンといういたって普通の格好だった。
なぜか首にヘッドホンをかけているのが気になるけど・・・
「おじゃましますね」
「あら、和人のお友達?」
「はい。ぼくは、星野天使といいます。
和人くんのお母さんですね」
前々から思っていたけど、星野くんは礼儀正しすぎる。
「あの、和人くん・・・・」
「どうしたの?」
なんだか星野くんはひどく悩んでいるようだった。
顔にこそ表していないけど、声がとてもつらそうに聞こえる。
「こんなこと相談するのは天使としてどうかと思いますが、悩みがあるんです」
「どんな悩みなの?話してみて」
「実は・・・・」
星野くんの話によると彼はストーカーの被害に会っているというのだ。
それも男子から。
「ぼく、どうしていいかわからないんです。相手の気持を拒んでいいのかよくわからなくて・・・・」
「拒んだほうがいいと思うよ。だって、そうしないとますますエスカレートしそうだから」
「でも、相手はぼくに好意を持っているんですよ。それを嫌がったりしたら、その人が可哀想です」
その気持ちはよくわかる気がする。
でも、現に星野くんはいじめに近いことをされている。
彼の話によると、ある男子生徒からいきなり告られたそうで、答えられないでいると、唇を奪われてしまったそうで。
「ぼく、どうしていいかわからないんです」
星野くん、勇気を出してイヤって言ってみようよ。
そうすれば、きっと相手もきみの気持ちにきづいてくれるはずだから。
「・・・・それは、ダメなんです」
ぼくは星野くんの答えに、一瞬思考が停止した。
ダメ?どういうことだろう?ぼくには理解できなかった。
「ぼくは、ぼくには、断れないんです・・・・」
星野くんはほんの一瞬だけど、悲しそうな顔をした。
「ぼくは天使だから、断っちゃダメなんです。誰がどんなひどいことをしても絶対にイヤって言ってはいけないんです」
そういえば、前にだけど、男子トイレで誰かが服を脱げとか言われていたけど、言われてたのって、星野くん・・・・
「そうですよ」
サラッと当たまえのように返す星野くん。
「言われたとおり全部脱ぎました。でも、ぼくは平気です。
なんとも思っていません。
ぼくは殴られても蹴られても服を脱がされてもいいんです。それぐらいなんとも感じません。それよりつらいのは、他の人が犠牲になることです。ぼくはそれを何よりも恐れているんです」
で、でも、それじゃ・・・きみはどうなるの!?
きみは・・・このままでいいの!?
「・・・・・!」
星野くんはぼくの大声に一瞬驚いたようで大きく目を見開いた。
その少女マンガのような大きな目がまたもとの半開きの目に戻った。
「ねぇ、星野くん」
「何ですか?」
可愛い笑みを浮かべる星野くん。
「殴っても・・・いいかな」
「いくらでも殴ってください」
まるで答えが決まっているかのような返事。
「殴らないのですか」
「キス・・・してもいい?」
「好きなだけしてもいいですよ」
うそ・・・うそだよ・・・!人間なら断るよね!?
イヤならイヤって言うよね!?
どうして、きみは言わないの・・・・
「ぼくは天使です」
星野くんの口癖。
星野くんは本当に自分のことを天使だと思っているんだ。
もしかすると彼は、何かの影響で、感情が麻痺しているのかもしれない。
何か心につらい傷があって・・・それを隠すために必死で我慢しているようにぼくには見えた。