複雑・ファジー小説

Re: ライオンさんとぼくのお話 ( No.35 )
日時: 2014/05/17 11:51
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

第27話

トリさんはじっくりと星野くんを見つめ、彼と同じぐらいの高さまで腰をかがめ、口を開く。

「きみは今、心も体も限界で悲鳴を上げている。これ以上、苦しむ必要はない」

彼の爽やかさの中に温かみを帯びた優しい声で語りかける。

「私は長い人生の中でさまざまな人間を見てきたが、きみほどの優しさに満ち溢れた人間は見たことがない。
きみの瞳には慈愛の光で溢れている。だが、優しいだけではだめだ。
嫌なことをはっきりと断れる勇気を持たねば!」

ここで彼はまた指を鳴らす。

「勇気……ですか……」

「そう!ブレ—」

だが、ここで彼は口をパクパクさせた。どうやら続きの言葉が言えないらしい。

何度も試してみるが、やはり、ブレの続きの言葉が言い出せない。

「なぜだ、なぜここでは私の口癖が言えない!」

彼はショックでがっくりと膝をつき、愕然とした。

「ああ……なんということだ……」

彼は一瞬蒸発していたが、星野くんの顔を見るなり立ち上がると、指を鳴らした。

「そう!勇気だ!!(日本語では言えたな……)」

するとその姿に星野くんはキラキラと目を輝かせた。
「本物だ!ぼく、感動しました!」

「ハハハハハ……それは光栄だ。
私もきみから勇気をもらうことがあるかもしれない、今のように。
それから、私はきみと師弟というよりは、兄弟のように接したい。
だから、敬語は使わなくてもいい。気を楽にしたまえ」

「はい、トリさん」

「ウム、では、星野くん。きみの家に帰ろう!」

「はい!」

彼は星野くんの片手を握り、空いた方の手で指を鳴らすと、ふたりともいなくなってしまった。

その様子を見たライオンさんが牙をむき出しにして笑った。

「トリニティと星野くんはうまくいくか楽しみだ」